
長澤まさみさんがいま立っている場所
2025年10月、長澤まさみさんは映画『おーい、応為』で、浮世絵師・葛飾北斎の娘であり弟子でもあった葛飾応為を演じました。これが時代劇映画での初主演です。同じ年の6月には主演映画『ドールハウス』が公開され、第49回日本アカデミー賞の優秀主演女優賞に選ばれています。そして2026年11月3日には、山崎貴監督の『ゴジラ-0.0』が公開されます。長澤さんの役は、気象台から大型災害対策事務局に出向した天才気象予報官・青山真琴です。
コメディの詐欺師から社会派ドラマのアナウンサー、江戸の絵師、怪獣映画の予報官まで。いまの長澤さんは、どんな役が来ても驚かれない俳優になりました。日本アカデミー賞でも、新人俳優賞から最優秀助演女優賞、最優秀主演女優賞まで、ひと通りの賞を受けてきています。
けれど、出発点は静岡県の小学6年生でした。母親やその友人にすすめられて応募したオーディションから、すべてが始まっています。
静岡県磐田市、サッカーの街で育った少女
長澤まさみさんは1987年6月3日、静岡県磐田市で生まれました。本名も同じです。父は元サッカー日本代表の長澤和明さんで、Jリーグに入る前のジュビロ磐田、ヤマハ発動機サッカー部で監督を務めた人です。長澤さんは、父の大学時代からの親友でサッカー指導者の石崎信弘さんや、父の教え子だった元日本代表の中山雅史さんとも、幼いころから面識があったそうです。
のちに父が監督をしていた常葉学園橘高校のサッカー部が全国高校サッカー選手権に初出場したとき、長澤さんは部員たちにミサンガを贈っています。サッカーは、長澤さんにとって家族の仕事であり、身近な応援の対象でもありました。
芸能界への入り口は、第5回東宝シンデレラオーディションです。母親やその友人のすすめで応募し、2000年1月9日、35,153人の中からグランプリに選ばれました。当時としては史上最年少の12歳、小学6年生でした。それから10年後の2010年には、第7回東宝シンデレラオーディションをPRするCMにも出演し、次の世代を呼びこむ側に回っています。
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中学2年で上京、『ロボコン』で初主演
グランプリから1か月後の2000年2月には、映画『クロスファイア』の撮影に入りました。役は倉田かおりで、これが映画デビューです。その後、ティーン雑誌『ピチレモン』の専属モデルもつとめ、同じ年の12月には初めてのテレビドラマにも出ています。
2001年、連続ドラマ『Pure Soul〜君が僕を忘れても〜』で初めてレギュラー出演が決まり、中学2年の春に東京へ移りました。最初は、同じオーディションで審査員特別賞に選ばれた大塚ちひろさんと2人で暮らしていたそうです。2002年にはNHK連続テレビ小説『さくら』で沼田佳奈子を演じ、2003年の映画『黄泉がえり』では森下直美役、『阿修羅のごとく』では里見洋子役をつとめました。
2003年、映画『ロボコン』で初主演をつとめ、葉沢里美を演じました。この作品で第27回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞し、ヨコハマ映画祭の最優秀新人賞にも選ばれました。同じ年からはゴジラシリーズにも出演し、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』と『ゴジラ FINAL WARS』で、大塚さんとともに小美人を演じました。20年以上たって、長澤さんは再びゴジラ映画に戻ってくることになります。
『世界の中心で、愛をさけぶ』で史上最年少の最優秀助演女優賞
大きな転機は2004年の映画『世界の中心で、愛をさけぶ』です。長澤さんはヒロインの廣瀬亜紀を演じました。白血病の治療の副作用で髪を失っていく役で、長澤さんは自分から申し出てスキンヘッドになっています。
映画は興行収入85億円の大ヒットになりました。長澤さんは第28回日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を、史上最年少で受賞します。エランドール賞の新人賞にも選ばれました。同じ年に公開された『深呼吸の必要』とあわせてブルーリボン賞の助演女優賞を受け、報知映画賞の助演女優賞にも選ばれて、幅広い世代に名前を知られるきっかけになりました。撮影の多くが香川県で行われた縁から、2004年11月には香川かがやき大使にも任命されています。
翌2005年には、ドラマ『優しい時間』で皆川梓、映画『タッチ』で浅倉南を演じ、ドラマ『ドラゴン桜』には水野直美役で出演しました。この年から東宝カレンダーの表紙を毎年飾るようになり、第56回NHK紅白歌合戦では審査員もつとめています。17歳から18歳にかけての、駆け足のような日々でした。
『プロポーズ大作戦』『ラスト・フレンズ』でドラマの顔に
2006年は、大河ドラマ初出演の『功名が辻』で小りんを演じ、秋には連続ドラマ『セーラー服と機関銃』で主演をつとめました。薬師丸ひろ子さんの主演で大ヒットした映画のリメイクで、長澤さんは役名の星泉の名前で主題歌も出しています。映画『涙そうそう』では妻夫木聡さんと主演をつとめ、新垣カオルを演じました。
2007年4月には、山下智久さんとのダブル主演で月9ドラマ『プロポーズ大作戦』に出演します。役は吉田礼。平均視聴率はそのクールで唯一15パーセントをこえ、最終回は20パーセントを上回りました。秋には明石家さんまさんとダブル主演をつとめた日曜劇場『ハタチの恋人』で沢田ユリを演じています。
2008年の『ラスト・フレンズ』では、上野樹里さんらと共演して藍田美知留を演じ、最高視聴率22.8パーセントを記録します。重いテーマを抱えたこの作品で、長澤さんは明るいヒロインだけではない顔を見せました。2009年には日曜劇場『ぼくの妹』でオダギリジョーさんとダブル主演をつとめ、江上颯を演じました。同じ年の大河ドラマ『天地人』では初音役で出演しています。10代の終わりから20代のはじめにかけて、長澤さんは連続ドラマの真ん中に立つ人になっていきます。
新しい顔を見せ続けた2010年代
2011年は、長澤まさみさんにとって挑戦の年でした。8月にPARCO劇場の『クレイジーハニー』で初舞台に立ち、9月には映画『モテキ』で松尾みゆきを演じます。それまでのイメージを越える役で新境地を開き、ブルーリボン賞の助演女優賞を受けました。2013年には台湾ドラマ『ショコラ』で海外ドラマにも初めて挑み、中国語のせりふを話しています。
2015年の『海街diary』では、綾瀬はるかさん、夏帆さん、広瀬すずさんと4姉妹を演じ、次女の香田佳乃役をつとめました。作品はカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品されています。2016年の大河ドラマ『真田丸』ではきりを演じ、2017年には映画『銀魂』で志村妙を演じ、『散歩する侵略者』では加瀬鳴海役で毎日映画コンクールの女優主演賞を受けました。
2018年には『コンフィデンスマンJP』で月9初の単独主演をつとめます。さまざまな人物になりすます詐欺師のダー子は当たり役になり、映画も『ロマンス編』『プリンセス編』『英雄編』の3本が作られました。2019年は『マスカレード・ホテル』の山岸尚美役などで報知映画賞の主演女優賞を受け、『キングダム』では山の民の王・楊端和を演じて日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受け、2020年の『MOTHER マザー』では三隅秋子役で最優秀主演女優賞に輝いています。
『エルピス』と舞台、そして『おーい、応為』へ
2022年のドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』で、長澤さんはテレビ局のアナウンサー・浅川恵那を演じました。深夜番組に追いやられたアナウンサーが、若いディレクターと冤罪の疑いがある事件を追っていく社会派の物語です。この役で橋田賞、ギャラクシー賞の個人賞、放送文化基金賞の演技賞を受けました。同じ2022年には映画『シン・ウルトラマン』で浅見弘子を演じ、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では1年を通して語りを担当しています。
舞台でも評価は続きます。野田秀樹さんのNODA・MAP『THE BEE』では小古呂の妻とリポーターを演じて読売演劇大賞の優秀女優賞を、2024年の『正三角関係』では唐松在良とグルーシェニカを演じて菊田一夫演劇賞を受けました。松本潤さん、永山瑛太さんと共演したこの舞台は、東京、北九州、大阪をめぐり、ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場でも上演されています。2025年には『おどる夫婦』で森山未來さんとダブル主演をつとめ、キヌを演じました。
そして『おーい、応為』です。監督は『MOTHER マザー』の大森立嗣さんで、北斎を永瀬正敏さんが演じました。応為という画号は、北斎がなにかにつけて娘を「おーい」と呼んでいたことに由来するといわれます。
長澤まさみさんの素顔とこれから
長澤さんが目標の女優に挙げているのは、松たか子さんです。好きな映画は『ジョゼと虎と魚たち』。この映画の脚本を書いた渡辺あやさんは、のちに『エルピス』の脚本を手がけた人でもあります。好きな音楽にはBUMP OF CHICKENやゆず、RADWIMPS、あいみょんなどを挙げています。CMでもおなじみの顔で、カルピスの広告には2005年から出演を続けています。2020年にはNHK BSプレミアムで、冠番組の『長澤まさみTV』も放送されました。2023年からはACジャパンの、プラン・インターナショナル・ジャパンを支援するキャンペーンでナレーションも担当しています。
人とのつながりを大切にする人でもあります。高校の同級生だった鈴木杏さんとは、いちばん親しい間柄だと話しています。『海街diary』で4姉妹を演じた綾瀬はるかさん、夏帆さん、広瀬すずさんとは、撮影のあとも毎年交流が続いているそうです。
これからの予定も並んでいます。11月3日公開の『ゴジラ-0.0』は前作『ゴジラ-1.0』の続編で、北米でも11月6日に公開されます。11月27日には映画『このごにおよんで愛など』の公開も予定されていて、長澤さんは詩という役を演じます。12歳でグランプリに選ばれた少女は、四半世紀たったいまも、新しい役に向かって歩き続けています。
写真: nakashi / CC BY-SA 2.0 (Wikimedia Commonsより)


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