
石原さとみさん、原石から始まった名前
2026年10月7日、フジテレビの水曜10時のドラマ枠で『ポリティカルパン』が始まりました。主演は石原さとみさん。脚本は『アンナチュラル』の野木亜紀子さんで、二人が組むのは約8年ぶりです。演じるのは、政治の世界に潜りこむ大泥棒の如月弥生。野木さんが石原さんに当てて書いた役だと紹介されています。
デビュー作で日本アカデミー賞の新人俳優賞を受け、2025年には同じ賞の優秀主演女優賞に選ばれた石原さん。1986年12月24日、東京都で生まれました。芸名には、本人の思いがこめられています。自分はまだ原石だという気持ちから「原石」を逆さにして名字を「石原」に。聡明で美しくありたいという願いから「聡美」とつけ、それをひらがなにして「さとみ」になりました。
実は「石原さとみ」として世に出る前から、芝居の経験があります。ホリプロ・インプルーブメント・アカデミーの5期生として学び、石神国子(いしがみ くにこ)の名前で映画『ホ・ギ・ラ・ラ』や『船を降りたら彼女の島』に出演していました。原石を自分で磨き始めていた時期です。
ピュアガール2002のグランプリから女優の道へ
本格的な出発点は2002年です。第27回ホリプロタレントスカウトキャラバン「ピュアガール2002」でグランプリに選ばれ、女優としての活動が始まりました。
2003年4月5日に公開された映画『わたしのグランパ』で、石原さとみの名前で初めて映画に出演します。演じたのは五代珠子役。この作品で第27回日本アカデミー賞の新人俳優賞をはじめ、第28回報知映画賞、第46回ブルーリボン賞、第25回ヨコハマ映画祭、第16回日刊スポーツ映画大賞、第13回日本映画批評家大賞と、映画の新人賞を合わせて六つ受けました。デビュー作でここまで評価されるのは、なかなかないことです。
同じ2003年4月にはTBSの『きみはペット』で澁澤ルミ役を演じ、連続ドラマに初出演しました。そして秋には、NHKの連続テレビ小説『てるてる家族』のヒロイン、岩田冬子役に抜擢されます。劇中では「幸福を売る男」と「恋の季節」をソロで歌い、ナレーションも務めました。この作品で第41回ゴールデン・アロー賞の放送新人賞と最優秀新人賞を受けています。
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朝ドラと大河のヒロインを重ねた若き日
10代のうちに、石原さんは大きな作品のヒロインを次々と任されます。2004年はフジテレビの『WATER BOYS2』でヒロインの矢沢栞役を演じ、第29回エランドール賞の新人賞を受けました。2005年はTBSの『H2〜君といた日々』で古賀春華役、NHK大河ドラマ『義経』でヒロインの静御前役を演じています。2004年のTBS『BE-BOP-HIGHSCHOOL』では泉今日子役、2005年のNHK『クライマーズ・ハイ』では望月彩子役と、学園ものから社会派の作品まで出演の幅も広がりました。
同じ2005年の映画『北の零年』では小松原多恵役を演じ、第29回日本アカデミー賞の優秀助演女優賞を受けました。2006年にはフジテレビの『Ns’あおい』で美空あおい役を演じ、民放の連続ドラマで初めて主演を務めます。
この年の秋には、舞台にも初めて立ちました。作品は『奇跡の人』で、役はヘレン・ケラーです。2008年にはつかこうへいさんの作・演出による『幕末純情伝』で沖田総司役に挑み、2009年には井上ひさしさんの新作『組曲 虐殺』で田口瀧子役を演じました。映画でも2007年の『包帯クラブ』でワラこと騎馬笑美子役、2008年の『フライング☆ラビッツ』で早瀬ゆかり役を演じています。テレビ、映画、舞台を行き来しながら、芝居の幅を広げていった時期です。
リッチマン、プアウーマンと失恋ショコラティエで迎えた転機
20代に入ると、役柄が大きく変わっていきます。2009年にはフジテレビ月9の『ヴォイス〜命なき者の声〜』でヒロインの久保秋佳奈子役を演じ、2010年から2011年にかけてはNHKのスペシャルドラマ『坂の上の雲』で秋山季子役を務めました。2010年のテレビ朝日『霊能力者 小田霧響子の嘘』では主人公の小田霧響子を演じています。
転機になったのは2012年のフジテレビ『リッチマン、プアウーマン』です。夏井真琴役で第74回ザテレビジョンドラマアカデミー賞の助演女優賞を受けました。2014年の『失恋ショコラティエ』では高橋紗絵子役を演じ、東京ドラマアウォード2014の助演女優賞など、この役だけで五つの助演女優賞を受けています。
この頃は雑誌の表紙でも引っぱりだこでした。雑誌の表紙を飾った回数が多い女性を選ぶ「カバーガール大賞」で、2014年は36誌、2015年は約26誌に登場し、2年続けて総合大賞に選ばれています。舞台でも、2011年は劇団☆新感線の『港町純情オセロ』でモナ役、2012年は『ロミオ&ジュリエット』でジュリエット役、2013年はバーナード・ショーの『ピグマリオン』で主演のイライザ役と、大きな役が続きました。
アンナチュラルとシン・ゴジラ 石原さとみさんの代表作
2015年は、フジテレビ『5→9〜私に恋したお坊さん〜』で桜庭潤子役を演じ、月9で初めて主演を務めました。同じ年には映画『進撃の巨人』でハンジ役を演じています。
2016年の映画『シン・ゴジラ』では、カヨコ・アン・パタースン役で第40回日本アカデミー賞の優秀助演女優賞を受けました。共演した竹野内豊さんは、最初の本読みの時点で、英語や難しい説明の多いせりふを石原さんが全部覚えてきていたことに触発されたと語っています。同じ年の日本テレビ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』では、主人公の河野悦子を演じました。
そして2018年、TBSの『アンナチュラル』で三澄ミコト役を演じます。脚本は野木亜紀子さん。第96回ザテレビジョンドラマアカデミー賞、東京ドラマアウォード2018など、主演女優賞を数多く受けた作品です。2020年にはフジテレビ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』で葵みどり役を、2021年には映画『そして、バトンは渡された』で梨花役を演じ、第45回日本アカデミー賞の優秀助演女優賞を受けました。その間にも、2019年のTBS『Heaven? 〜ご苦楽レストラン〜』で黒須仮名子役、映画『決算! 忠臣蔵』で瑤泉院役を演じています。
石原さとみさんのいま ミッシングからポリティカルパンへ
2022年には、NHKの『あしたが変わるトリセツショー』で番組を進めるエンターテイナー役を担当し、初めてMCに挑戦しました。2024年は女優としての大きな作品が続きます。テレビ朝日の連続ドラマ『Destiny』で西村奏役を演じ、5月公開の主演映画『ミッシング』では沙織里役を演じました。この演技で第49回報知映画賞の主演女優賞、第48回日本アカデミー賞の優秀主演女優賞を受けています。8月公開の映画『ラストマイル』では、ふたたび三澄ミコトとして登場しました。
舞台では、2019年に長塚圭史さんの作による『アジアの女』で主演し、2021年には『終わりよければすべてよし』でヘレン役を演じてきました。2026年5月には、彩の国さいたま芸術劇場で上演されたシェイクスピアの『リア王』で長女のゴネリル役を務めました。演出は長塚圭史さん、主演のリア王は吉田鋼太郎さんです。
そして10月からの『ポリティカルパン』です。架空の国ニッポニアの政界を舞台に、如月弥生が使い道の見えない政治のお金をねらい、与党の金庫番の議員と化かし合いを繰り広げます。共演は高橋一生さん、河合優実さん、渡部篤郎さん、草刈正雄さんです。
メイクは自分で 旅と料理が好きな素顔
ドラマや映画、舞台では、できるだけメイクを自分でするようにしているそうです。役に向き合う姿勢が、こんなところにも表れています。『てるてる家族』に出演していたころは、公式サイトに「さとみの大阪日記」を開き、撮影が終わったあとも「さとみ日記」として活動の報告を続けていました。
大の旅行好きでもあり、仕事の合間をぬって海外へ出かけています。旅の番組にもたびたび出演していて、2012年にはNHK BSプレミアムの『旅のチカラ』で、「マイム 言葉なき感情」と題してパリを訪ねています。南ドイツやニューヨーク、アフリカを訪ねる番組にも出演しています。料理も好きで、千切りがストレス発散になっていると明かしています。
プロ野球OBの試合「サントリードリームマッチ」では、2014年から中止の2020年をはさんで7年続けて始球式に登場しました。2015年は村田兆治さんのマサカリ投法、2016年は野茂英雄さんのトルネード投法、2018年は三浦大輔さんの2段モーション、2021年は斎藤雅樹さんのサイドスローと、毎年ちがうフォームを披露しています。女優の松本まりかさんとは仲がよく、2021年には初めてショートヘアにしました。
これからの石原さとみさん
原石を逆さにした名前で歩き始めてから、20年あまりがたちました。新人賞をいくつも受けたデビュー作のあとも、石原さんは立ち止まりませんでした。朝ドラのヒロイン、大河ドラマのヒロイン、月9の主演、そして『アンナチュラル』の三澄ミコト。石原さんは役ごとに、見る人の印象を塗りかえてきました。そのあいだ、ヘレン・ケラーや沖田総司、ジュリエットと、舞台でも難しい役を引き受け続けています。
2024年の『ミッシング』で演じた沙織里は、主演女優賞という形で評価されました。2026年はシェイクスピアの舞台でゴネリルに挑み、秋には女ルパンの如月弥生として、軽やかな怪盗ものの主役を担っています。重い人間ドラマも、痛快なエンターテインメントも任される女優になりました。その土台には、竹野内豊さんを触発した、せりふを全部覚えて本読みにのぞむ姿勢があります。
『アンナチュラル』以来の野木亜紀子さんとのタッグが、どんな新しい顔を引き出すのか。女ルパンの如月弥生という役は、その問いへのひとつの答えになりそうです。
写真: Dick Thomas Johnson from Tokyo, Japan / CC BY 2.0 (Wikimedia Commonsより)


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