ムロツヨシ、数学科を3週間でやめた青年が『九条の大罪』の京極になるまで

ムロツヨシさんの2026年、笑わせる人がこわさを見せた

2026年4月2日、Netflixで『九条の大罪』の配信が始まりました。ムロツヨシさんが演じたのは、暴力団・伏見組の若頭、京極清志です。ふだんのにぎやかなイメージをおさえた役で、作品は日本のNetflix週間TOP10(シリーズ)で4週連続1位になりました。2027年1月8日公開の『映画 九条の大罪』でも、京極を続けて演じます。

同じ年の5月には中村倫也さん、神木隆之介さんが出演する映画『君のクイズ』で、クイズ番組「Q-1グランプリ」の総合演出・坂田泰彦を演じました。5月15日から7月17日まで、WOWOWでは主演ドラマの続編『ドラフトキング -BORDER LINE-』も放送されました。

喜劇の人として知られるムロさんですが、名前が広く知られるまでには長い時間がかかりました。その始まりは、大学の数学科でした。

横浜の菊名で生まれ、ベイスターズを愛した少年時代

ムロツヨシさんは1976年1月23日、神奈川県横浜市港北区菊名で生まれました。本名は公表していません。芸名のムロツヨシには、名字と名前の区切りがありません。英語のクレジットでも、Murotsuyoshiと続けて書かれます。

横浜市立神大寺小学校、横浜市立六角橋中学校を経て、神奈川県立鶴見高校に進みました。学生時代はハンドボール部に入っていました。少年のころからの横浜ファンで、大洋ホエールズの時代から横浜DeNAベイスターズを応援しつづけ、全選手の記録を言えるほどだそうです。2019年に球団のドキュメンタリー映画『FOR REAL-戻らない瞬間、残されるもの。-』のナレーションを頼まれたときは、うれしくてすぐに引き受けました。

高校を出たあと、一浪して東京理科大学の理学部数学科に入りました。のちに作る舞台の題にも数学の記号をつけていくことになるのですが、このときはまだ、俳優になるとは考えていませんでした。

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数学科を3週間でやめて、俳優の道へ

大学に入ったムロさんは、学びたいことがあってこの学科を選んだという同級生たちに出会います。偏差値の高い大学に入ることしか考えていなかった自分が恥ずかしくなり、自分も夢を持つ側になりたいと思ったそうです。メディアアーティストの真鍋大度さんは、このときの同級生です。いっしょに過ごしたのはほんの短い間でしたが、キャンプにも出かけました。2014年には自分のラジオ番組『スパカン!』に真鍋さんを招き、20年ぶりの再会をはたしています。

そのころ、ファンだった深津絵里さんが出る舞台『陽だまりの樹』を見に行きました。1幕の終わりで段田安則さんが涙を流す芝居に心を動かされ、俳優になろうと決めます。

大学は3週間でやめ、俳優養成所の東京アクターズスタジオに入りました。劇団東京乾電池の研究生だった時期もあります。中央卸売市場やコンサート会場でアルバイトをしながら、小さな劇団の舞台に立つ日々が始まりました。答えのある数学の世界から、答えのない芝居の世界へ。ここから長い下積みが続きます。

アルバイトと小劇場の日々、ムロツヨシさんの長い下積み

1999年からは、一人で舞台の活動を始めました。けれど、なかなか芽は出ません。2001年には演劇バトル「E-1グランプリ」に出るため、役者仲間を誘って演劇ユニット「劇団ヤニーズ」を作りましたが、のちに退団しています。

小劇場で演出をあれこれ試すうちに、ある役者が仲間から「ずるい」と言われた演出をヒントにして、飄々とした独特の間とテンポの芝居が生まれたそうです。いまのムロさんらしさの出発点です。

映像の仕事は、2005年の映画『サマータイムマシン・ブルース』が足がかりになりました。演じたのは石松大悟です。同じ年の『交渉人 真下正義』では倉橋大助を演じ、この共演をきっかけに小泉孝太郎さんと親しくなりました。倉橋役は、2010年の『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』と2012年の『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』でも続けています。2007年の『ガリレオ』第1話ではクリーニング屋、『SP 警視庁警備部警護課第四係』第1話では合コンの男性と、1話だけの役も数多く演じました。2008年の映画『アフタースクール』では甲斐を、2012年の『鍵泥棒のメソッド』ではお見合い候補者を演じています。無名のころから、まじめな役から三枚目まで、たくさんの作品に出ています。その積み重ねが、俳優や監督とのつながりを広げていきました。

舞台「muro式」と『勇者ヨシヒコ』のメレブ

2008年、ムロさんは自分の舞台「muro式」を始めます。脚本・演出・出演をすべて自分でこなす舞台です。題は「幾」「例」「算」「xyz」「∴」など、数学にちなんだものばかりでした。数学科を3週間でやめた人が、数学の言葉で舞台を作りつづけたことになります。2009年12月からは、muro式の宣伝もかねたトークライブ「ムロツヨシ、バナシ」も開いています。事務所のコントライブ『東京コントメン』でも、立ち上げから2018年まで司会をつとめました。

テレビでは、2011年に始まった『勇者ヨシヒコと魔王の城』でメレブを演じ、2016年の『勇者ヨシヒコと導かれし七人』まで続けました。佐藤二朗さんらとともに「福田組」の常連として、福田雄一監督の作品に多く出ています。福田監督と知り合ったことが、ブレイクの後押しになったと言われています。

2013年にはNHKのコント番組『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』に参加し、ドラマ『空飛ぶ広報室』では比嘉哲広を、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』では竹元勇三を演じました。2014年には『アオイホノオ』で山賀ヒロユキを演じ、『新解釈・日本史』では主演をつとめました。2016年の『重版出来!』では沼田渡を、同じ年の『悪党たちは千里を走る』では主演の高杉篤郎を演じています。

42歳の新人賞、ムロツヨシさんが主役になるまで

2017年は、ムロさんの名前がさらに広がった年です。大河ドラマ『おんな城主 直虎』で瀬戸方久を、映画『銀魂』で平賀源外を演じ、アニメ映画『ボス・ベイビー』では主人公の声を担当しました。4月には渡辺直美さんに教わってInstagramを始め、5時間でフォロワーが20万人をこえて話題になりました。

2018年、42歳でエランドール賞の新人賞を受けます。5月には、2008年から続けてきた舞台の集大成『muro式.10』の千穐楽を迎えました。秋にはドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』で間宮真司を、『今日から俺は!!』で椋木先生を演じました。2019年にはGQ MEN OF THE YEARのアクター・オブ・ザ・イヤー賞を受けました。

そして2021年秋、映画『マイ・ダディ』で実写映画の初主演をはたし、御堂一男を演じます。その前の2020年には、映画『新解釈・三國志』で諸葛亮孔明を演じ、主演ドラマ『親バカ青春白書』では小比賀太郎を演じながら第6話の監督演出も担当しました。2022年の主演映画『神は見返りを求める』では田母神尚樹を演じています。この年の6月24日、自分で言いつづけてきた「ムロツヨシの日」が、日本記念日協会に正式に認められたことがサプライズで発表されています。

スキーと横浜DeNA、仕事の外のムロツヨシさん

ムロさんの趣味はスキーです。映画『疾風ロンド』に出るために練習したのがきっかけで、それ以来すっかり好きになりました。親しい小泉孝太郎さんとは、2019年からフジテレビの旅番組『小泉孝太郎&ムロツヨシ 自由気ままに2人旅』を続けています。

好きな映画は、ジャック・ニコルソンさんとモーガン・フリーマンさんの『最高の人生の見つけ方』。2019年には、その日本版の映画『最高の人生の見つけ方』に高田学役で出演しています。好きな本は、伊坂幸太郎さんの『アヒルと鴨のコインロッカー』です。テレビ番組では、思い出の中でいまも輝いている曲にとんねるずの「雨の西麻布」を、いま心に響く曲にウルフルズの「笑えれば」をあげていました。

作品に出るだけでなく、宣伝の記者会見でも共演者のあいだをうまく回って、作品の話題をつくることでも知られています。制作する側からの信頼が厚いのは、そんなところにもあるのでしょう。2022年4月からは新しい事務所アッシュアンドエーに所属しています。「A」には始まりのA、ActorのA、AnswerのAという意味がこめられています。

50歳をこえたムロツヨシさんのこれから

主演作はその後も続いています。2023年のWOWOWドラマ『ドラフトキング』で主演の郷原眼力を、フジテレビの『うちの弁護士は手がかかる』でも主演の蔵前勉を演じました。同じ年の大河ドラマ『どうする家康』では、豊臣秀吉を演じています。2024年の映画『身代わり忠臣蔵』では、吉良上野介と孝証の二役で主演しました。

2025年12月には、佐藤二朗さんとのW主演映画『新解釈・幕末伝』で坂本龍馬を演じています。2025年には舞台『muro式.「トイ」』も上演しました。2026年はお正月から、細田佳央太さんとのW主演ドラマ『雪煙チェイス』、スペシャルドラマ『うちの弁護士はまたしても手がかかる』と続き、6月の『新劇場版☆ケロロ軍曹』ではメレブの声で登場しました。

2026年1月に50歳の誕生日を迎え、3月には生誕50周年の小冊子『20260123』も出ています。東京スカパラダイスオーケストラの「グッドラック!マイフレンド feat.ムロツヨシ&さかなクン」では歌声も聞かせ、NHK Eテレのアニメ『ねずみくんのチョッキ』の主題歌になりました。次は2027年1月8日公開の『映画 九条の大罪』です。数学科の教室で夢を持つ側になりたいと思った青年は、いまもまだ、新しい答えを探しつづけています。

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