『相棒』の亀山薫役で知られる寺脇康文さんは、2026年10月に始まった『相棒 season25』で、この役を通算12シーズン目まで重ねました。そんな寺脇さんが俳優になろうと決めたのは、デパートでアルバイトをしていたころ、駅のエスカレーターの上だったといいます。初給料から始まった道のりを、作品名と役名でたどります。
寺脇康文さんの出発点は岐阜駅のエスカレーター
寺脇康文さんは1962年2月25日生まれで、大阪府堺市の出身です。岐阜県立岐陽高等学校(現在の本巣松陽高等学校)を卒業したあと、大学受験がうまくいかず、デパートの地下の食材売り場でアルバイトを始めました。
転機は岐阜駅のエスカレーターに乗っているときに来ます。寺脇さんはアルバイトの初給料を見ながら、これから自分は何をして食べていけるのかを考えました。そこで出た答えが俳優でした。
俳優という仕事を意識した理由として、寺脇さんは水谷豊さんの名前を挙げています。ドラマ『バンパイヤ』で水谷さんの演技を見たことが俳優になったきっかけだと、さまざまなメディアで語ってきました。のちに『相棒』で並び立つ人が、はじめは憧れの先にいたことになります。
大阪の出身と聞いて、意外に思う方もいるかもしれません。寺脇さん自身も2025年のインタビューで「人生の3分の2を東京で過ごしていますからね」と話しています。
名古屋の養成所から東京へ、1984年の初舞台
俳優になると決めた寺脇さんは、名古屋の俳優養成所のオーディションを受けて合格し、そこで学びました。卒業後に上京し、1984年に三宅裕司さんが主宰する劇団「スーパー・エキセントリック・シアター」(SET)に入ります。同じ年の11月、SETの第17回公演『超絶技巧殺人事件』でデビューしました。
1987年には劇団の仲間である岸谷五朗さん、山田幸伸さんとコントユニット「SET隊」を組みます。読み方は「せったい」です。SETの公演の中やラジオドラマでコントを披露していました。1989年には日本テレビで『SET隊のあっ!』が放送され、翌1990年には『SMALL』で主演を務めています。ラジオでは『岸谷五朗の東京RADIO CLUB』の初期に、水曜日のレギュラーとして出演しました。
テレビにも少しずつ出番が増えます。1989年からは『三宅裕司のいかすバンド天国』に出演しました。同じアミューズ所属の桑田佳祐さんのソロデビュー曲『悲しい気持ち』では、テレビで歌う桑田さんの後ろで踊るバックダンサー「湘南隊」の一員も務めています。桑田さんが監督した映画『稲村ジェーン』にも出演しましたが、編集で尺が合わず、寺脇さんの場面はすべてカットになりました。
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岸谷五朗さんと地球ゴージャスへ、ブランチの顔にも
1991年、寺脇さんは『刑事貴族2』の藤村亮役で、憧れの水谷豊さんと共演します。続く『刑事貴族3』でも同じ役を演じました。1993年には『ひとつ屋根の下』の斉藤博幸役で出演し、ドラマの出番も広がっていきます。
1994年、寺脇さんは岸谷五朗さんとともにSETを退団し、企画ユニット「地球ゴージャス」を結成します。第1回公演は1995年の『瓶詰めの地獄』です。その後も『クラウディア』や『星の大地に降る涙』などを重ね、2024年には三十周年記念公演『儚き光のラプソディ』を上演しました。2025年のインタビュー記事では、岸谷さんは「戦友にして親友」と紹介されています。
もうひとつの大きな仕事が、1996年4月に始まった『王様のブランチ』です。寺脇さんは総合司会を10年間務め、2006年12月に番組を卒業しました。司会の顔として寺脇さんを覚えている方もいるかもしれません。同じ1996年には連続テレビ小説『ひまわり』で田中俊を演じ、1998年には大河ドラマ『徳川慶喜』で岩倉具視を演じました。1999年のアメリカ映画『プリンス・オブ・エジプト』では吹き替えでモーセの声を担当しています。
寺脇康文さんの代名詞になった亀山薫役
代表作の『相棒』は2000年の『pre season』から始まります。寺脇さんが演じたのは警視庁特命係の刑事、亀山薫です。熱血漢でお人好しの薫と、冷静で頭脳派の杉下右京が組みます。水谷豊さんとのダブル主演で、静と動の組み合わせが見どころになりました。薫がコーヒー好きという設定から、片岡物産「モンカフェ」のCMにも出演しています。
2002年の『season1』から連続ドラマとして続き、シリーズは人気作に育っていきます。2008年5月には『相棒』での演技が評価され、水谷さんとともに第16回橋田賞の俳優部門を受賞しました。
2008年公開の『相棒 -劇場版- 絶体絶命! 42.195km 東京ビッグシティマラソン』でも亀山薫を演じ、この演技で2009年2月に第32回日本アカデミー賞の優秀助演男優賞を受賞しています。2008年12月17日に放送された『season7』第9話で、寺脇さんはいったんシリーズを卒業しました。『相棒』の初代の相棒として、8年あまり走り続けたことになります。
主演作を重ねた卒業後と、14年ぶりの帰還
『相棒』を卒業したあとの寺脇さんは、主演の仕事を次々と重ねます。2010年の『853〜刑事・加茂伸之介』は、連続ドラマで初めての単独主演作です。フジテレビの『警部補・佐々木丈太郎』、TBSの『守護神・ボディーガード 進藤輝』と『信濃のコロンボ』、テレビ東京の『検事・沢木正夫』と『ラスト・ドクター〜監察医アキタの検死報告〜』など、局をまたいでシリーズの顔になりました。
映画では『超高速!参勤交代』の荒木源八郎役、『空飛ぶタイヤ』の高幡真治役があります。舞台では『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授役を2013年から2021年まで4度にわたって演じました。ほかにも2011年の『風と共に去りぬ』でレット・バトラーを、2015年の『プルートゥ PLUTO』でゲジヒトを演じました。NHKでは『大岡越前』の結城新三郎役、『ノースライト』の青瀬年雄役があります。
そして2022年6月、『相棒 season21』で亀山薫に戻ることが発表されます。同じ年の8月には2023年の連続テレビ小説『らんまん』に池田蘭光役で出ることも発表されました。『season21』は2023年3月15日まで放送され、『らんまん』への出演は翌月の4月10日から14日でした。2024年には配信の『相棒 sideA』『sideB』『sideX』でも亀山薫を演じています。
大阪弁の検事から相棒 season25のバトンまで
2025年にはテレビ東京の『能面検事』で大阪地検の次席検事、榊宗春を演じました。主人公を演じる上川隆也さんとの共演を望んでいたこともあり、出演は即答で決めたそうです。原作の榊は標準語を話します。寺脇さんはインタビューで「ドラマでは大阪弁にしてもらいたいと、その一つだけお願いしました」と話しています。第1話のセリフは自分で全部大阪弁に直したそうです。大阪出身の寺脇さんにとって、本格的に大阪弁で演じるのはこれが初めてでした。
2026年は東京・高輪のMoN Takanawaの開館記念公演『マンガローグ:火の鳥』に、ステージキャストのひとりとして名を連ねました。4月22日から5月16日までの公演です。
同じ2026年の10月21日に始まった『相棒 season25』では、亀山薫としてシリーズに出演しています。放送前の10月に発表されたのは、このシーズンのどこかで亀山薫から及川光博さんが演じる神戸尊へ、相棒のバトンタッチが行われるという知らせでした。発表の時点で、時期は明らかにされていません。寺脇さんは「その日が来るまで、誠心誠意、魂を込めて演じる所存でございます! やったるでー!」とコメントしています。
寺脇康文さんの素顔、絵とルパンと毎朝の台本
寺脇さんは、漫画家を目指していたこともあるほど絵が上手です。MCを務めたBS日テレの『わんニャン倶楽部〜動物と楽しく暮らそう〜』では、番組に登場した動物たちのイラストを披露しました。『相棒』season24の初回でも、その腕前が画面に映っています。『ルパン三世』の大ファンでもあります。
好きな俳優には水谷豊さんと松田優作さんを挙げています。水谷さんの仕事ぶりについては2025年のインタビューで「豊さんは、ギリギリまで“これでいいのか”と考えているんですよ」と語りました。そして「その背中をずっと見てきたので」と続けています。
セリフの覚え方はとてもシンプルです。「台本を繰り返し読む。俺の場合、セリフの覚え方はそれだけなんですよ」と寺脇さんは話しています。ここ何年かは、毎朝ストレッチをしながら最低2回は台本を通して読むそうです。そのあとはウォーキングをしながらセリフを確かめています。かつてはクランクイン前に高尾山へ登り、山頂で腕立て伏せをしながらセリフを覚えていたこともありました。
これからの寺脇康文さん、やりたい仕事を選んで走る
次に控える作品のひとつが、映画『超高速!参勤交代 フルスロットル』です。2027年4月23日に松竹の配給で公開される予定で、寺脇さんも出演します。シリーズの2014年と2016年の作品に続いて、役は荒木源八郎です。
『相棒』のバトンタッチについて、及川光博さんは「亀山先輩からの“二度目のバトン”をしっかり受けとりたいと思っています!」とコメントしました。寺脇さん自身は、薫が戻ってからの日々について「常に“新鮮に”取り組んできたからだと思います」と振り返っています。
仕事の選び方については2025年のインタビューで「60歳を超えて、これからは、本当にやりたいと思った仕事の話が来たら、どんなに忙しくてもやっていこうと思っています」と話しました。岐阜駅のエスカレーターで出した答えを、寺脇さんは舞台、司会、亀山薫と場所を広げながら続けてきました。

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