格闘ゲームのテリー・ボガードの声、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャン、そして日曜劇場『VIVANT』の原智彦。この三つを同じ人が担ってきたと聞くと、少し驚くかもしれません。演じてきたのは、俳優で声優で歌手でもある橋本さとしさんです。出発点は劇団☆新感線でした。舞台からテレビ、声の仕事まで、橋本さとしさんの歩みを作品名と役名で順に見ていきます。
橋本さとしさんの出発点、枚方市から大阪芸術大学、そして舞台へ
橋本さとしさんは1966年4月26日生まれで、大阪府枚方市の出身です。大学は大阪芸術大学の芸術学部舞台芸術学科に進み、卒業しています。舞台を専門に学ぶ学科です。
俳優の橋本じゅんさんとはこの大学の先輩と後輩の間柄です。名字は同じですが、血縁関係はありません。劇団時代の二人は、コンビで活動することも多くありました。
デビューの場も舞台でした。1989年、劇団☆新感線の公演に立ちます。舞台の出演歴のいちばん上に並ぶのは、同じ年の『スサノオ〜神の剣の物語』のタカオウ役です。1994年の『スサノオ〜武流転生』でもタカオウ役を演じました。
劇団にいたころから、テレビや映画の出演も始まっています。1990年にはTBSの『男について』とフジテレビの『恋のパラダイス』、1993年には『誰にも言えない』、1994年には『スウィート・ホーム』と『29歳のクリスマス』に出ました。映画では1994年の『極道の妻たち』が出演歴の最初に並びます。
劇団☆新感線で舞台を重ね、『野獣郎見参!』で主役に
1995年の舞台『ロッキー・ホラー・ショー』ではエディとスコット博士の二役を務めました。1996年には『D・LIVE ROCK TO THE FUTURE』でキッズ役、『狸 TANUKI』で稲光役を演じています。
同じ1996年の『BEAST IS RED 〜 野獣郎見参!』では、物怪野獣郎役で主役を務めました。このころの橋本さんについて、のちのインタビュー記事は、エネルギッシュな持ち味が新感線にいたころから今も生きていると紹介しています。
1997年の『直撃!ドラゴンロック〜轟天〜』のノロイ役を最後に、橋本さんは劇団を退団しました。同じ1997年の1月にはCDシングル「Wild Ride」を出していて、ミュージシャンとしての顔ものぞかせています。
あわせて読みたい:前田公輝の生い立ちと軌跡はこちら
テリー・ボガードの声とファイヤーコンボイ、声の仕事という顔
ゲームが好きな人には、橋本さとしさんの名前を声で知った人もいるでしょう。SNKの対戦格闘ゲーム『餓狼伝説』シリーズと『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズで、テリー・ボガード役とキム・カッファン役を担当しました。キム役は『XI』まで、テリー役は『XIII』までです。劇団時代には橋本じゅんさんと『餓狼伝説』シリーズで兄弟役の声を務めました。
『CAPCOM VS. SNK』シリーズや『ネオジオバトルコロシアム』にも出演し、2005年のWebアニメ『The King of Fighters: Another Day』でもテリーを演じました。2025年の『餓狼伝説 City of the Wolves』ではナレーションを務めています。
2000年のテレビアニメ『トランスフォーマー カーロボット』では、ファイヤーコンボイ役を担当しました。橋本さんはこの役に強い思い入れがあるそうです。熱い心に不可能はない、というファイヤーコンボイの口癖に、何度も勇気づけられたといいます。
映画の吹き替えでは2018年の『リメンバー・ミー』でエルネスト・デラクルス役を務めました。
悪役が続いた映像の仕事と、舞台への帰還
劇団を離れてからしばらくは、テレビなど映像の作品が多くなりました。1999年の『古畑任三郎』第3シーズン「絶対音感殺人事件」で石森役、2000年の『トリック』で桂木弘章役、2001年の『救命病棟24時』で成島秀人役を演じています。映画では2000年の『ホワイトアウト』で戸塚信吾役でした。
2005年に『笑っていいとも!』へ出たときには、しばらくドラマには悪役でしか出ていない、と話したそうです。出演歴に役の名前がずらりと並ぶ時期で、1話ごとのゲストとしても多くの作品に顔を出しています。
その一方で、1999年からは再び舞台に立つようになりました。1999年の『検察側の証人』で立花洋一役、2001年には蜷川幸雄さん演出の『ハムレット』でレアティーズ役を演じます。宮本亜門さん演出の『くるみ割り人形』ではドロッセルマイヤー役でした。2003年には鴻上尚史さん作の『シンデレラストーリー』で宮廷大臣ピエール役、『天使は瞳を閉じて』で電通太郎役と、新作ミュージカルへの出演が続きました。
橋本さとしさんの転機、『ミス・サイゴン』と『レ・ミゼラブル』
大きな節目は2004年です。橋本さとしさんは帝国劇場のミュージカル『ミス・サイゴン』で、主役のエンジニアに抜てきされました。この役は2008年にも演じています。
2006年にはジョン・ケアードさん演出の『ベガーズ・オペラ』で、物語を進める案内役のような詩人を演じました。翌2007年には、同じケアードさんがロンドンの初演から手がけてきた『レ・ミゼラブル』で、ジャン・バルジャン役に選ばれます。2009年にも同じ役を務めました。
その後もミュージカルの大きな役が続きます。『ジェーン・エア』のロチェスター役、『三銃士』のアトス役、『ロミオ&ジュリエット』のロレンス神父役、『アダムス・ファミリー』のゴメズ・アダムス役などです。ミュージカルと並行して、鈴木勝秀さん、G2さん、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの演出作品にも出ています。2013年の『祈りと怪物 〜ウィルヴィルの三姉妹〜』では錬金術師ダンダブール役でした。『シャーロック ホームズ』の舞台ではホームズ本人を演じ、2015年の続編にも出ました。
日曜劇場から大河ドラマまで、『VIVANT』の原智彦役
ドラマの出演も続きました。TBSでは2015年の『下町ロケット』で三田康役、2018年の『ブラックペアン』で黒崎誠一郎役、2021年の『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』で駒場卓役を演じています。駒場卓役は2023年の映画版でも続けました。
『VIVANT』は2023年7月から9月にTBS系で放送された作品です。橋本さんの役は丸菱商事の原智彦で、経理の原部長と呼ばれる立場です。インタビューでは役づくりについて、「こういう上司いるよね」というさじ加減で、「パワハラ系の部長的キャラクターとして演じたんです」と話しました。主演の堺雅人さんについては「現場はすごく緊張感があったけれど、堺君のおかげでリラックスすることができたので、思いっきりやってみようと思ったんです」と振り返っています。
NHKでも、大河ドラマは2012年の『平清盛』で源為朝役、2023年の『どうする家康』で山県昌景役を演じました。連続テレビ小説では2019年の『なつぞら』で荒井康助役、2023年の『らんまん』で森有礼役を務めています。2024年の『パーセント』では藤谷光彦役でした。映画では2019年の『七つの会議』で坂戸崇彦役、2020年の『新解釈・三國志』で関羽役を演じています。
ナレーションに趣味の火吹き、舞台を離れた橋本さとしさんの素顔
俳優の仕事とは別に、橋本さとしさんの声はナレーションでも使われてきました。NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』と『歴史秘話ヒストリア』、TBSの『有田プレビュールーム』を担当し、資生堂のエリクシール・シュペリエルのCMでも声を聞かせています。ラジオでは1998年から1999年にCBCラジオの『橋本さとし Rock’n Soul Show』を持ちました。
趣味と特技はスキー、手品、火吹き、バルーンアートです。好きなものは揚げ物と甘いもので、苦手なものはトマト、ニンジン、辛いものです。ロングコートチワワのチョップとフック、2匹の飼い主としても知られています。
お酒が強そうに見られることもあるそうですが、実はとても弱いそうです。『ベガーズ』の共演者と串焼き屋へ行ったときはホットミルクを頼み、周りから赤ちゃんみたいだと突っ込まれたという話が残っています。
所属先は2023年8月末で26年間いた事務所のキューブを離れ、2024年からホリプロに移りました。
2026年は寺山修司の幻の戯曲へ、これからの舞台
2020年代に入っても、舞台は途切れていません。2022年から演じてきた『千と千尋の神隠し』の釜爺役は、2024年と2026年にも続きました。2023年と2024年の『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』ではハロルド・ジドラー役、2024年の『カム フロム アウェイ』ではクロード役ほかを務めています。2025年は『ラブ・ネバー・ダイ』でファントム役、『爆烈忠臣蔵〜桜吹雪 THUNDERSTRUCK』で遠山金四郎役でした。
2026年の大きな舞台の一つが、Bunkamura Productionのミュージカル『獅子 THE LION-BEAT』です。寺山修司さんの幻の戯曲を61年ぶりに上演する作品で、橋本さんの役は帽子の雨です。公演日程は、東京のTHEATER MILANO-Zaが2026年10月4日から20日まで、大阪のSkyシアターMBSが同じ年の11月です。同じ2026年には映画『キングダム 魂の決戦』で張唐役を務め、2月には加藤和樹さんとのコンサート「THE Roots 2026」にも出ています。
先の予定も発表されています。2027年上演予定の『ファインディング・ネバーランド』では、フック船長とチャールズ・フローマンを演じます。枚方市で生まれ、劇団☆新感線から出発した橋本さとしさんの舞台歴に、また新しい役が加わります。


コメント