キムラ緑子、『スター誕生!』に落ちた少女が看板女優を経て『VIVANT』へ

『VIVANT』の櫻井里美、連続テレビ小説『ごちそうさん』の西門和枝、舞台で演じた笠置シヅ子。キムラ緑子さんは、近所のおばちゃんから貴婦人まで、印象のちがう役を自然に演じてきた俳優です。その出発点には、中学生のときに『スター誕生!』のオーディションに落ちて泣きながら帰った日と、大学で友人についていった演劇サークルの見学がありました。淡路島の洲本で育った少女が歩いてきた道を、順番にたどります。

キムラ緑子さんの生い立ち、淡路島の洲本で歌手にあこがれた少女時代

キムラ緑子さんは1961年10月15日生まれ、兵庫県洲本市の出身です。洲本市は淡路島にある町で、キムラ緑子さんは大野という地域で生まれました。洲本市立加茂小学校、洲本市立青雲中学校、兵庫県立洲本高等学校と、学校もずっと地元です。部活動は中学校でテニス部、高校で剣道部に入っていました。アイドルグループ、フォーリーブスの青山孝史さんに歓声を上げていたという話も残っています。

小さいころから歌が好きで、将来は歌手になりたいと思っていたそうです。中学生のときには、そのあこがれから『スター誕生!』のオーディションを受けました。歌ったのは中島みゆきさんの「時代」です。最後の5人ほどまで残りましたが、結果は落選でした。泣きながら家に帰ったといいます。

このときは、歌手への道は開きませんでした。ただ、歌はこのあともキムラ緑子さんの仕事から離れません。大人になってから自分のライブを開き、舞台で昭和の大歌手を演じることになるのは、もっとあとの話です。

友人についていった見学が転機に、同志社女子大学で出会った演劇

高校を卒業したキムラ緑子さんは、同志社女子大学の学芸学部英文学科に進みます。演劇の道に入るきっかけは、入学してすぐにできた友人でした。その友人は演劇が大好きな女性で、サークルの見学に行くからついてきてほしいと頼まれたのです。

こうして初めて観たのが、マキノノゾミさんによる、つかこうへいさんの舞台作品でした。キムラ緑子さんはこの舞台に衝撃を受け、姉妹校である同志社大学の演劇サークル「第三劇場」に入部します。自分から探しに行ったわけではなく、友人に誘われて座った客席から始まった演劇でした。頼まれて付きそっただけのつもりが、そのまま人生の仕事につながったことになります。

ただ、卒業してすぐに俳優になったわけではありません。大学を出たあと、キムラ緑子さんは一度、地元に帰っています。舞台の世界へ本格的に向かうのは、そのあとのことです。背中を押したのは、つかこうへいさんの影響でした。

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1984年に上京、劇団M.O.P.の旗揚げから解散まで看板女優に

1984年、キムラ緑子さんは上京し、マキノノゾミさんが立ち上げた劇団「M.O.P.」の旗揚げに参加します。キムラ緑子さんは2010年の解散まで看板女優として舞台に立ち続けました。2010年には紀伊國屋ホールで『さらば八月のうた』を上演しています。

舞台での仕事は賞でも評価されました。1993年には十三夜会賞の個人賞を受賞しました。1997年には戦後一幕物傑作選の『秋の歌』で水原一枝を演じ、第32回紀伊國屋演劇賞の個人賞を受賞します。同じ1997年には『東京原子核クラブ』の箕面富佐子も演じました。さらに第12回読売演劇大賞では優秀女優賞に選ばれています。

映像の仕事も早くから少しずつありました。映画では1989年の『極道の妻たち 三代目姐』のすぎ子、テレビでは1994年の『名奉行 遠山の金さん』のおくめといった役があります。それでも当時のキムラ緑子さんの中心は舞台でした。その軸足が映像へ広がっていくのは、2000年ごろのことです。

『パッチギ!』から『海街diary』まで、キムラ緑子さんが広げた映像の役

2000年ごろから、キムラ緑子さんはテレビドラマや映画に次々と出るようになります。2000年の『池袋ウエストゲートパーク』では森永貴子を演じ、2002年には連続テレビ小説『まんてん』で黒田和枝を演じました。朝ドラにはこのあとも『純情きらり』の西野シヅ子、『ちりとてちん』の菊江と出演が続きます。『Dr.コトー診療所』の北見康代や『鹿男あをによし』の前村さおりを覚えている方もいると思います。

映画でも役の数が増えていきます。2005年の『パッチギ!』ではアンソンとキョンジャの母を、2006年の『嫌われ松子の一生』では川尻多恵を演じました。2007年の『舞妓Haaaan!!!』の良江、2009年の『ディア・ドクター』の迫田圭子、2012年の『テルマエ・ロマエ』の山越由美と『わが母の記』の伊上志賀子も、キムラ緑子さんの役です。2015年の『駆込み女と駆出し男』ではお勝、『海街diary』では高野日出子を演じています。

近所のおばちゃんから貴婦人まで、自分の個性を意識させずに役に入りこむ。そんな演じ方から、キムラ緑子さんは「カメレオン女優」とも呼ばれるようになりました。作品名を並べると、その呼び名に納得がいきます。

『ごちそうさん』のいけずな義姉、西門和枝で一躍注目の俳優に

大きな転機になったのが、2013年の連続テレビ小説『ごちそうさん』です。杏さんが演じるヒロインの義姉、西門和枝を演じました。いけずな義姉という役どころで、この役によってキムラ緑子さんは一躍注目を集めます。いけずとは、関西の言葉で意地が悪いことをいいます。舞台で30年近く積み重ねてきた俳優の名前が、毎朝のドラマで広く知られるようになりました。

そのあとの仕事はさらに幅が広がります。ドラマでは2015年の『ゴーストライター』の田浦美鈴、2016年の『僕のヤバイ妻』の鯨井有希、2017年の『陸王』の飯山素子、2018年の朝ドラ『半分、青い。』の藤村光江、2020年の『心の傷を癒すということ』の朴美里を演じました。必殺仕事人シリーズでは2019年から綾小路てんを演じています。

舞台も止まりません。2016年には『三婆』で富田駒代を演じ、この役は2019年にも大阪松竹座と博多座で再び演じました。2017年の『フェードル』ではエノーヌを務め、2021年にも同じ役で出演しています。映画では2017年の『関ヶ原』で北政所を、2018年の『銀魂2 掟は破るためにこそある』でお登勢を演じました。北政所からお登勢まで、役の振れ幅の大きさが目立ちます。

キムラ緑子さんが演じる『VIVANT』の櫻井里美と、続く話題作

2023年にTBSで放送された『VIVANT』で、キムラ緑子さんは櫻井里美を演じました。2026年7月26日に放送が始まった第2シーズンにも、同じ櫻井里美役で出演しています。

同じ2023年には、映画『波紋』の橋本昌子と『大名倒産』の天元屋のタツを演じました。舞台では『パラサイト』の安田玉子を演じ、THEATER MILANO-Zaと新歌舞伎座で上演されています。2024年にはミュージカル『トッツィー』でリタ・マーシャルを演じ、日生劇場や博多座などをまわりました。同じ2024年の朝ドラ『おむすび』では佐久間美佐江を演じています。朝ドラへの出演は、これで6作になりました。

2025年にも出演が続きます。映画『花まんま』の繁田房枝、WOWOWのドラマ『夜の道標 -ある容疑者を巡る記録-』の阿久津栄子を演じ、配信ドラマ『にこたま』では岩城瞳を演じました。舞台は『先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜』に出演しています。声の仕事も重なり、2026年の映画『モアナと伝説の海』の吹き替えではタラおばあちゃんを担当しました。

歌姫ドリー・キムラと故郷のライブホール、仕事の外で見せる素顔

歌手になる夢は、思わぬ形で実を結びます。2008年、放送作家の東野ひろあきさんの企画で、15分ほどのステージに出たのがきっかけでした。キムラ緑子さんはラスベガス生まれの日系三世の歌姫「ドリー・キムラ」に扮し、俳優の大谷亮介さんが扮する「タニー・オータニ」と「ドリー&タニー」というユニットを組みます。年に1回ほどのペースでライブハウスに立ち、芝居仕立ての音楽ライブで、ジャズのスタンダードナンバーを関西弁で歌っています。2014年にはCD『Dolly & Tanny:Live』も出しました。

2024年4月には、故郷の洲本市に多目的ライブホール「Live Hall Dolly’s」を開きました。場所はコモード56商店街です。神戸新聞の取材には「みんなで手をつないでまちを盛り上げたい」と話しています。2026年8月1日には淡路島まつりの「おどり大会」に初めて参加し、「コモード56連」に加わり、踊りながら商店街などを練り歩きました。そのときのことをSNSでふり返り、「身体に力が湧いてきました」と書いています。

テレビでは、ドラマとはちがう顔も見せています。NHK Eテレの『グレーテルのかまど』では2011年からかまどを担当し、2020年11月からは『大改造!!劇的ビフォーアフター』の2代目ナレーションも務めています。

笠置シヅ子役を経て『エレクトラ』へ、キムラ緑子さんのこれから

2026年の舞台で大きな仕事になったのが、『わが歌ブギウギ-笠置シヅ子物語-』です。1月2日から20日まで東京の三越劇場で、1月24日から2月1日まで京都の南座で上演され、キムラ緑子さんは主演の笠置シヅ子を演じました。作は小野田勇さん、補綴と演出は齋藤雅文さんで、松村雄基さんが服部良一を、林翔太さんが花森英介を演じています。補綴とは、もとの脚本に手を加えて整えることです。公開稽古では、歌って踊る場面も披露されました。

『スター誕生!』に落ちて泣きながら帰った中学生が、長い年月のあとで舞台の真ん中に立ち、大歌手として歌ったことになります。3月からは舞台『終わった人』の2026年公演にも出演しました。

次の舞台として発表されているのが『エレクトラ』です。栗山民也さんの演出で、明日海りおさんとのダブル主演です。キムラ緑子さんはクリュタイムネストラを演じ、2026年12月に東京建物 ぴあ シアターで上演、2027年1月にはツアー公演も予定されています。友人についていった見学から始まった演劇の道は、ダブル主演の大役へと続いていきます。洲本の商店街と全国の大きな舞台を行き来しながら、次はどんな顔を見せてくれるのか、楽しみに待ちたくなります。

参考:キムラ緑子の詳しいプロフィール(Wikipedia)

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