
大泉洋さんがいま土曜の夜に背負う箱根駅伝の生中継
2026年10月10日、日本テレビの土曜ドラマ『俺たちの箱根駅伝』が始まりました。池井戸潤さんの小説が原作で、主演の大泉洋さんが演じるのは、箱根駅伝の生中継を担う大日テレビ・スポーツ局のチーフプロデューサー、徳重亮です。編成局長から無理難題を押しつけられながら、中継の現場で決断を迫られる役どころです。選手たちの側には、明誠学院大学陸上競技部の新監督・甲斐真人を演じる山下智久さんがいます。
主演の発表は、2026年1月3日の『完全密着!箱根駅伝』の中でした。大泉さんは、選手や監督が主役の箱根駅伝を、中継するテレビ局の側から描く切り口が新鮮だと語っています。主題歌は桑田佳祐さん。自分の主演ドラマの主題歌を桑田さんに書いてもらうのは長年の夢だったそうで、決まったと聞いて驚き、感動したとコメントしました。
俳優、司会、歌、声優、エッセイと、肩書きを並べるときりがない大泉さん。けれども出発点は、北海道の大学の演劇サークルと、深夜のローカル番組でした。
落語のテープで育った北海道の少年
大泉さんは1973年4月3日、北海道江別市で生まれました。幼いころは江別市大麻で過ごし、小学5年生のときに札幌市南区の真駒内へ引っ越しています。
話のうまさの原点は、両親が車の中で流していた落語のテープです。暗記するほど聴きこんだことで、トークの力が養われたといいます。小学校では同級生2人とやったコントが受けて、人気者だったそうです。中学時代には担任の先生から、面談で吉本に行けと言われたこともありました。
ところが中学・高校では一転して目立たない存在になり、物事を斜めに見るようになっていたと振り返っています。人前で何かをするのがかっこ悪く思えたうえに、やってみろと背中を押してくれる場がなかった、というのが本人の説明です。北海道札幌藻岩高校を卒業したあとは2年間浪人し、予備校に通いました。このとき札幌の予備校で同級生だったのが、のちにTBSのアナウンサーになる安住紳一郎さんです。二人はのちに『ぴったんこカン・カン』などで共演しています。
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2浪の末に入った大学で出会った演劇研究会とTEAM NACS
1994年、北海学園大学経済学部に入学します。もともと志望していた大学ではなく、本人もかなり落ちこんでいましたが、このまま腐った気持ちでいるのはまずいと奮起して、演劇研究会に入りました。演劇を始めたばかりの1年生のころ、三谷幸喜さんが主宰する劇団東京サンシャインボーイズの『ショー・マスト・ゴー・オン』をテレビで観て、演劇の面白さを知ったといいます。
研究会では森崎博之さん、安田顕さん、佐藤重幸さん(現在の戸次重幸さん)、音尾琢真さんと仲良くなりました。個性の強い5人は、研究会の中で浮いていたそうです。1996年、森崎さんと安田さんの卒業公演のために、1回限りのユニットとして「TEAM-NACS」を結成。二人の就職で一度は解散したものの、それぞれが会社を辞め、1997年8月に再結成しています。1995年には先輩の森崎さんと戸次さんのすすめで、稲田博さんが主宰する劇団イナダ組にも入り、2004年まで所属しました。初めて舞台の立ち方を教えてくれた人として、稲田さんをいまも師と仰いでいます。
大学では高校の地理歴史の教員免許も取っていて、卒業後は教師になるつもりでした。当時のテレビ出演はあくまでアルバイトで、テレビは思い出作りだと公言していたほどです。
2代目「元気くん」から『水曜どうでしょう』へ
テレビとの出会いは1995年10月、北海道テレビ(HTB)の深夜番組『モザイクな夜V3』でした。演劇研究会の舞台を見た劇団の関係者が目をとめ、すすきののお店を取材するレポーター、2代目「元気くん」に起用されます。トークの力を買われてスタジオにも呼ばれるようになり、番組をきっかけに鈴井貴之さんが代表を務めるCREATIVE OFFICE CUEに所属しました。1996年7月公開の『ガメラ2 レギオン襲来』では、地下鉄の乗客役で映画に初出演しています。ただしエンディングのクレジットに名前は載りませんでした。
翌1996年10月には、HTBの深夜番組『水曜どうでしょう』が始まります。大泉さんと鈴井さん、ディレクターの藤村忠寿さん、嬉野雅道さんの4人で過酷な旅をする内容が人気を呼び、1999年には深夜枠ながら最高視聴率18.6%を記録しました。同じ年から全国の局でも放送されるようになり、テレビ朝日『パパパパパフィー』への出演もあって、大泉さんの名前は北海道の外へ広がっていきます。
2000年には、自分の手でテレビ番組を作れるようになりたいと、HTBにディレクター研修を志願。森崎さんの冠番組『いばらのもり』の立ち上げに加わり、コーナーの企画や演出、編集まで手がけました。
31歳の大泉洋さんが手漕ぎボートで東京へこぎ出すまで
2002年に『水曜どうでしょう』のレギュラー放送が終わると、この先も仕事を続けていけるのかという不安が大きくなりました。北海道での仕事に行き詰まりを感じていたことも重なり、ドラマや映画にきちんと取り組もうと決意します。それでも東京の芸能界は怖いと迷っていた大泉さんの背中を押したのが、鈴井さんの言葉でした。大きな船でいきなり海の真ん中に出るのではなく、手漕ぎボートでゆっくり出ていけばいい、何かあれば岸に戻ってこられる。そう言われて安心し、上京を決めたそうです。
2004年5月、TEAM NACSの第10回公演『LOOSER〜失い続けてしまうアルバム〜』の東京公演で、本格的に東京へ進出しました。31歳のときです。同じ年の12月にはアミューズと業務提携を結んでいます。
2005年、フジテレビ『救命病棟24時』の佐倉亮太役で全国ネットの連続ドラマに初出演。2006年には単発ドラマ『おかしなふたり』の桜木直役で主演し、『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』では田中裕子さんとダブル主演で中川雅也を演じました。2007年の日本テレビ『ハケンの品格』では東海林武を演じ、2009年の『赤鼻のセンセイ』の石原参太朗役で連続ドラマに初主演しました。2010年には大河ドラマ『龍馬伝』で近藤長次郎を演じています。
『探偵はBARにいる』で札幌の探偵になった大泉洋さん
2011年、札幌・すすきのを舞台にした映画『探偵はBARにいる』で主演の探偵役を務め、第35回日本アカデミー賞の優秀主演男優賞を受けました。作品は『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』『探偵はBARにいる3』とシリーズになり、北海道で育った大泉さんの代表作になっていきます。
その後も主演映画が続きます。2014年の『青天の霹靂』では轟晴夫を演じてTAMA映画賞の最優秀男優賞、2015年の『駆込み女と駆出し男』では中村信次郎を演じてブルーリボン賞の主演男優賞を受賞。2016年の『アイアムアヒーロー』の鈴木英雄、2018年の『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の鹿野靖明と、喜劇からシリアスまで役の色はさまざまです。2021年の映画『騙し絵の牙』は、作家の塩田武士さんが大泉さんを主人公に想定して書いた小説が原作で、大泉さんが主人公の速水輝を演じました。
声の仕事も長く続けています。『千と千尋の神隠し』の番台蛙、『ハウルの動く城』のかかしのカブ、『茄子 アンダルシアの夏』の主人公ペペ・ベネンヘリ、ゲーム『レイトン教授』シリーズの主人公レイトン教授など、声だけで分かる役も少なくありません。
紅白の司会と源頼朝で国民的な顔になった2020年代
テレビでも存在感はさらに増していきます。2015年の連続テレビ小説『まれ』ではヒロインの父・津村徹、2016年の大河ドラマ『真田丸』では主人公の兄・真田信之を演じました。2018年からはNHKの音楽番組『SONGS』に番組責任者として出演し、2019年には日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』で、ラグビー部のゼネラルマネージャー君嶋隼人を演じて主演しています。
2020年から2022年までは、3年続けて『NHK紅白歌合戦』の司会を担当しました。2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では源頼朝を演じ、物語の前半の要を担っています。2023年には、作詞を手がけた『あの空に立つ塔のように』で、第74回紅白歌合戦に歌手として初めて出場しました。
2023年の日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』では刑事の護道心太朗を、2025年秋にはテレビ朝日で初めて主演した連続ドラマ『ちょっとだけエスパー』で、どん底のサラリーマン・文太を演じています。脚本の野木亜紀子さんとは映画『アイアムアヒーロー』以来の顔合わせで、役について「文太さんはとても優しい。穏やかな人物を演じるのは久々だなと思いました。」と語っていました。2025年12月には、映画『ラストマン -FIRST LOVE-』で再び護道心太朗を演じています。
大泉洋さんの素顔とスクリーンに帰ってくる探偵
仕事の外の顔でよく知られているのは、料理好きとスープカレー好きです。『水曜どうでしょう』では「シェフ大泉」として料理をふるまい、調理に時間がかかることや味について、共演者やディレクターから不評を受けることが多かったそうです。ベル食品の「本日のスープカレーのスープ」をプロデュースしたこともあります。物まねも得意で、TEAM NACSの仲間から共演者まで、レパートリーは60人以上。撮影現場に入ると雨が降り出す雨男としても知られています。
大泉さんは、物事を続けることへのこだわりも口にしています。かけた年月の分だけ味が出ると考え、出会いを簡単に終わりにしたくないといいます。TEAM NACSの活動や、北海道時代から続くレギュラー番組の長さにも、その姿勢が表れています。2013年に出したエッセイ本『大泉エッセイ〜僕が綴った16年』は、2017年7月の時点で約42万部が発行されました。
そして2026年12月25日には、映画『BYE BYE LOVE 探偵はBARにいる』が公開されます。シリーズ4作目で、相棒役の松田龍平さんも引き続き出演し、監督は白石和彌さん、主題歌はサカナクションの「グッドバイ」です。すすきのの探偵が、9年ぶりにスクリーンへ帰ってきます。
写真: Dick Thomas Johnson / CC BY 2.0 (Wikimedia Commonsより)


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