藤井風、岡山の喫茶店のピアノ動画から全編英語『Prema』へ コーチェラと東京ドームの今

藤井風 男性芸能人
写真: KazeQal / CC BY 4.0(Wikimedia Commons)
藤井風の写真

藤井風さん、コーチェラから東京ドームのピアノリサイタルへ

2026年4月、藤井風さんはアメリカ・カリフォルニアの音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル」のステージに立ちました。世界中から人が集まる大舞台で、その様子はYouTubeでも生中継されています。6月の「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」では、2年連続の最優秀アルバム賞をふくむ4つの賞を受けました。

そして10月31日、台湾・高雄のスタジアムから、ワールドツアー「Prema World Tour」が始まります。11月の福岡、12月の大阪と東京のドーム公演を経て、2027年1月にはソウルへ。夏にはケルン、ロンドン、パリなどのヨーロッパと、北米も回る予定です。その合間の11月20日・21日には、東京ドームでピアノ一台の「藤井風 ピアノリサイタル」も開きます。

世界を回るシンガーソングライターになった藤井さんですが、出発点は岡山の小さな町の喫茶店でした。12歳のころ、実家の店で弾いたピアノの演奏を、父親がYouTubeに上げはじめました。すべてはそこから始まっています。

岡山・里庄町で3歳から親しんだピアノ

藤井さんは1997年6月14日、岡山県浅口郡里庄町で4人きょうだいの末っ子として生まれました。本名も藤井風です。3歳でピアノを習いはじめ、ジャズ、クラシック、ポップス、歌謡曲、演歌まで、ジャンルを問わずにいろいろな音楽にふれて育ちます。ピアノだけでなく、エレクトーンやサックスも弾きこなしました。

英語は幼いころから父親に教わり、学校の授業ではなく独学で身につけています。子どものころから世界を強く意識していて、日本だけに限らない届け方をしようという思いが最初からあったそうです。のちに洋楽のカバー動画をたくさん投稿したときも、訳詞のテロップはすべて自分でつけていました。

中学校を卒業すると、特別入試で岡山県立岡山城東高等学校の音楽学類に進み、音楽漬けの毎日を送りました。地元の言葉も大切にしていて、一人称は岡山の方言の「ワシ」。歌詞も、岡山弁と標準語を使い分けて書いています。

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実家の喫茶店から始まったYouTubeの日々

小学校を卒業する前、これからはYouTubeの時代だという父親の直感で、2010年1月1日から、実家の喫茶店で撮ったピアノの演奏動画の投稿が始まりました。藤井さんは12歳でした。最初は再生回数も少なく、自分は何をしているんだろうと思い悩みながら、細々と続けたといいます。

クラシックからJ-POP、洋楽まで、耳で聴いた曲をそのままコピーして自分なりにアレンジする動画が少しずつ広まり、2012年の「千本桜」のピアノ演奏などで再生数をのばしました。高校時代はいったん投稿を休み、卒業と同時に再開します。2017年8月には、テイラー・スウィフトさんの曲のカバーで初めて歌声を披露し、そこからはピアノの弾き語りが中心になりました。2018年には「おどるポンポコリン」をジャズ風にアレンジした「アダルトちびまる子さん」が話題になります。

動画には小物やオチ、変顔をしのばせ、見る人を楽しませる工夫もしていました。竹内まりやさんは、デビュー前の藤井さんが「プラスティック・ラヴ」を弾き語りする動画を見つけ、レコード会社に契約したほうがいいと伝えていたそうです。

喫茶店まで訪ねてきた一人の熱意と「何なんw」

2017年の終わりごろ、ディスクガレージの河津知典さんは、藤井さんの動画を見て強く心を動かされました。2018年の夏、河津さんは岡山の喫茶店まで直接たずね、契約を申し出ます。藤井さんにはほかにもいくつものレーベルから声がかかっていて、両親からは東京に出なくていいと言われて育っていました。それでも河津さんの熱意に親子で心を打たれ、契約を決めます。

2019年2月に上京すると、5月にはニューヨークへ「武者修行の旅」に出かけ、英語で自分から交渉して、飛びこみで弾き語りをしました。7月の初ワンマンライブは、オリジナル曲を1曲も出していないのに全公演が完売。同じ月には『藤井風のオールナイトニッポン0(ZERO)』で、ラジオ初出演にして自分の名前がついた番組を担当しています。

11月18日、初めてのオリジナル曲「何なんw」をリリースしました。公式サイトでは、ミュージックビデオが公開された2020年1月24日を、正式なメジャーデビュー日としています。リリースの前日にLINE CUBE SHIBUYAで開いたワンマンライブも、チケットは即日完売でした。2020年に入ると、Spotifyが活躍を期待するアーティスト「Early Noise 2020」に選ばれ、YouTubeの「Artist on the Rise」には日本人として初めて選ばれています。

『HELP EVER HURT NEVER』と「きらり」で広がった藤井風さんの名前

2020年5月20日、1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』が出ました。タイトルは「常に助け、決して傷つけない」という意味で、父親から教わり、藤井さんがふだんから当たり前に思っていた考えです。レーベル名の「HEHN RECORDS」も、この言葉の頭文字からきています。アルバムはBillboard JAPANの総合アルバムチャートで1位になり、10月には初の日本武道館公演を開きました。

2021年には、ドラマ『にじいろカルテ』の主題歌「旅路」で初めてのタイアップ(作品とのコラボ)を経験し、HondaのVEZELのCMソングとして「きらり」を書き下ろします。「きらり」は、2025年3月にストリーミングの累計再生回数が6億回をこえる代表曲になりました。9月には日産スタジアムでの無観客ライブを無料で生配信し、約18万人が同時に視聴。年末には第72回NHK紅白歌合戦に初出場し、岡山の実家から「きらり」を届けたあと、会場にサプライズで登場して「燃えよ」を弾き語りしました。

2022年3月の2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』は、オリコン週間アルバムランキングで初めての1位を獲得しています。

「死ぬのがいいわ」が73か国へ、世界に見つかった藤井さん

2022年の夏、思いがけないことが起こります。1stアルバムに入っていた「死ぬのがいいわ」が、TikTokをきっかけにタイで人気になり、Spotifyのタイのバイラルチャートで1位に。そこから世界中に広がり、9月から10月にかけて、国別チャートが公開されている73か国すべてのデイリーバイラルチャートに入り続けました。11月にはSpotifyの月間リスナー数が、邦楽アーティストとして初めて1,000万人をこえています。

同じ年の10月には、大阪のPanasonic Stadium Suitaで初めての有観客スタジアムライブを開き、2日間で7万人が集まりました。2023年にはピアノ一台で回る初の海外公演、アジアツアーを行い、ドラマ『いちばんすきな花』の主題歌「花」を発表。2024年には映画『四月になれば彼女は』の主題歌「満ちてゆく」を出し、ロサンゼルスとニューヨークで初のアメリカツアーを開きました。このとき「死ぬのがいいわ」はアメリカでゴールドディスクに認定されています。

8月の日産スタジアム公演には、2日間で約14万人が来場しました。年末の紅白歌合戦では、ニューヨークの街を歩きながら「満ちてゆく」を歌い、朝日を背にビルの屋上で歌い上げる一発撮りの生中継が話題になりました。

全編英語詞の『Prema』、3年かけた次の一歩

2022年に「grace」を出したあと、藤井さんは日本語で表現したいことはやりつくしたと感じ、燃えつきたような時間を過ごしたといいます。曲を作る意味さえ見えないなかで立ち返ったのは、英語のオリジナル曲をやりたいという昔からの夢でした。

2025年9月5日、約3年ぶりの3rdアルバム『Prema』がリリースされます。6月と8月にはリードトラックの「Hachikō」と「Love Like This」を先に配信し、発売日にはテレビ朝日系『ミュージックステーション』に初めて出演しました。全曲が英語詞で、海外のプロデューサーとも組み、ジャズやディスコ、ゴスペル、シンセポップまで幅広い音を取りこみました。NHKの特集番組で藤井さんは、英語だと日本語よりシンプルでまっすぐな表現になると話し、「英語はすごくピュアに考えさせてくれる」と語っています。アルバムは初週に約19.8万枚を売り上げ、Billboard JAPANとオリコンの両方で首位に立ちました。

この年は初のヨーロッパツアーでモントルー・ジャズ・フェスティバルなどに出演し、北米ツアーではロラパルーザ・シカゴのステージにも立っています。初めての英語のアルバムを作りあげ、北米を回ったあとも、藤井さんは「まだ旅の途中ですね」と話していました。

自然体の藤井風さん、ピアノ一台で東京ドームへ

ステージの外の藤井さんは、とても自然体な人です。お酒は飲まず、タバコも吸いません。動物がかわいいという理由でベジタリアンであることを公言していて、自分のライブの飲食ブースでベジタリアンフードを出したこともあります。毎朝の瞑想も習慣です。音楽以外のことには無頓着で、よく物をなくすそうです。デビュー前には、母校の岡山城東高校の後輩たちの遠征費を寄付したこともありました。

ファンとの向き合い方にも、藤井さんらしさが出ています。ファンクラブは作らず、公式サイトと無料の公式アプリで写真や日記を届けています。2022年からは公演中の撮影も許可していて、アンコールをしないのもいつものスタイルです。

これからの予定も大きく動きます。10月31日の高雄で幕を開ける「Prema World Tour」の合間、11月20日・21日の東京ドームでは、ピアノの弾き語りで自分の曲やカバーを演奏し、客席からのリクエストにこたえるコーナーも予定されています。喫茶店のピアノから始まった音楽が、いちばん大きな会場でもう一度ピアノ一台に戻ってくる。藤井さんらしい選び方です。

写真: KazeQal / CC BY 4.0 (Wikimedia Commonsより)

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