
松下奈緒さんの原点は、3歳のピアノと川西の野山
手書きのノートを頼りに患者と向き合う看護師、那須田灯。2026年10月に始まったテレビ朝日系のドラマ『アナログナース~デジタルってなんなんだよ!?~』で、松下奈緒さんが主演として演じた役です。連続ドラマの真ん中に立つ俳優である一方、松下さんはピアニストで、作曲家で、歌手でもあります。
松下奈緒さんは1985年2月8日、奈良県生駒市に生まれ、兵庫県川西市で育ちました。音楽好きのご両親のもと、家にはいろいろな音楽が流れていたそうです。お母さんがピアノを弾いていた影響で3歳からピアノを始め、ヤマハ音楽教室で学びました。
川西は自然の豊かな土地でした。人より動物に出合うことのほうが多かったと語るほどの環境で、松下さんは野山を駆け回って育っています。ピアノに向かう時間と、外を走り回る時間。子どものころから、その両方があったんです。
『ロングバケーション』の南ちゃんに憧れて、女優を志す
女優という仕事を意識したきっかけは、1996年に放送されたフジテレビ系のドラマ『ロングバケーション』でした。山口智子さんが演じる南ちゃんに憧れて、女優を志すようになります。ピアノを習う子どもに、もう一つ目標ができました。
最初に開いた道はモデルです。高校在学中の2000年、モデル事務所エリートジャパンが主催するコンテストでグランプリを受賞し、同社に所属しました。翌2001年には日本コカ・コーラ「爽健美茶」のテレビCM「天気雨」篇などに出演しています。
2003年に上京し、東京音楽大学の音楽学部音楽学科に入学します。専攻はピアノでした。女優を志しながら、進学先には音楽を選んだわけです。モデルの仕事と音楽の勉強、そして女優への憧れ。10代の松下奈緒さんは、その三つを同時に抱えて東京へ出てきました。その後は仕事がとても忙しくなり、1年の留年をへて、2008年に卒業しました。
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音大生のまま『仔犬のワルツ』でデビュー、ピアノは代役なし
女優デビューは大学在学中の2004年です。日本テレビの連続ドラマ『仔犬のワルツ』で鴻池聖香を演じ、ピアノの場面は代役なしで演奏しました。音大でピアノを専攻する新人にとって、自分の力をそのまま見せられる役だったでしょう。
その後はドラマの出演が続きます。2004年にフジテレビ『人間の証明』の朝枝路子、2005年に『恋におちたら〜僕の成功の秘密〜』の白川香織、2006年に『トップキャスター』の野原芽衣。同じ2006年にはTBS『タイヨウのうた』の橘麻美を演じました。11月公開の『アジアンタムブルー』では続木葉子を演じ、映画にも初めて出演しています。
2007年には映画『未来予想図 〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜』の宮本さやかを演じ、2008年には主演映画『砂時計』で水瀬杏を演じました。同じ年の映画『チェスト!』では白石奈津子を、ドラマ『猟奇的な彼女』では浅倉南を、『課長島耕作』では大町久美子を演じています。2009年の映画『沈まぬ太陽』では桶田恭子を演じました。役の数を一つずつ増やしていった時期です。
松下奈緒さんのもう一つの顔、ピアニストで作曲家で歌手
演技と同じ時期に、音楽の仕事も大きく動きました。2005年のNHK大河ドラマ『義経』では、エンディングの解説「義経紀行」の音楽でピアノを担当しています。2006年10月には1stアルバム『dolce』をエピックレコードジャパンから出し、ピアニスト、作曲家としてデビューしました。歌のないインストゥルメンタルのアルバムとしては異例の、オリコン初登場37位を記録しています。
2007年4月1日には東京芸術劇場で日本フィルハーモニー交響楽団と共演しました。指揮は渡邊一正さん、曲はモーツァルトの『ピアノ協奏曲第20番』です。アンコールでは自作の「わんこ」をソロで弾きました。
歌手デビューのきっかけは、『タイヨウのうた』でシンガーソングライターの役を演じたことです。歌を披露して「声」という楽器に目覚め、2007年7月にアニメ映画『ピアノの森』の主題歌「Moonshine〜月あかり〜」で歌手としてもデビューしました。2007年度後期の連続テレビ小説『ちりとてちん』では、オープニングテーマのピアノ演奏も担当しました。2008年の『チェスト!』では、ヒロインに加えて主題歌、ピアノ演奏、劇音楽の作曲まで務めています。同じ年の12月30日には第50回日本レコード大賞で堺正章さん、上戸彩さんとともに司会を務めました。
転機は2010年の『ゲゲゲの女房』、布美枝役で広く知られる存在に
大きな転機は、2010年度前期のNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』でした。松下奈緒さんはヒロインの村井(飯田)布美枝を演じる主演に起用され、本格的にブレイクします。主題歌はいきものがかりさんの「ありがとう」で、松下さんはこの曲をピアノでカバーしました。演じる人が弾くピアノで主題歌を聴けるのは、松下さんならではの形です。
同じ年には司会の仕事も重なりました。『第42回思い出のメロディー』を三宅裕司さんとともに担当し、年末の『第61回NHK紅白歌合戦』では紅組の司会を務めています。NHKスペシャル『日本列島 奇跡の大自然』では案内人も担当しました。2010年のタレントCM起用社数のランキングでも、前年のランク外から急上昇したと報じられています。
2011年4月から6月には『ゲゲゲの女房』のゆかりの地を巡るコンサートツアー『松下奈緒コンサートツアー”Scene#25”』を開きました。自身2度目のツアーです。ドラマにゆかりのある土地を、今度はピアノを持って訪ねたわけです。2012年には、アルバム『for me』に収録した「Save the Dream」が第19回日本プロ音楽録音賞の部門Aで最優秀賞を受賞しました。部門Aは2chパッケージメディアのクラシック、ジャズなどを対象にしたものです。
民放初主演の『CONTROL』から、田沼意次、バカボンのママまで
2011年のフジテレビ『CONTROL〜犯罪心理捜査〜』で、松下さんは瀬川理央を演じ、民放の連続ドラマに初めて主演しました。2012年の主演ドラマ『早海さんと呼ばれる日』では早海優梨子を演じ、劇中曲も書き下ろして提供しています。2016年の『早子先生、結婚するって本当ですか?』では、役に合わせて、デビュー以来ずっとロングだった髪を約30センチ切り、ショートヘアで立木早子を演じました。
その後の役の幅には驚かされます。2013年の『二十四の瞳』では大石久子を、2016年からの『天才バカボン』シリーズではバカボンのママを演じました。2017年の『トットちゃん!』では黒柳(門山)朝を、2018年度後期の連続テレビ小説『まんぷく』では安藤サクラさんが演じるヒロインの姉、香田克子を演じています。『ゲゲゲの女房』以来8年ぶりの朝ドラ出演で、おばあちゃんの姿まで見せました。
2020年の『アライブ がん専門医のカルテ』では恩田心を、2022年の『風よ あらしよ』では平塚らいてうを演じています。2023年の『大奥 Season2「医療編」』では田沼意次を、2024年の『スカイキャッスル』では浅見紗英を演じました。映画『ドクター・ストレンジ』シリーズでは、クリスティーン・パーマーの日本語吹替も担当しています。
『アナログナース』の那須田灯、手書きのノートで患者を見る主人公
2025年の『大追跡〜警視庁SSBC強行犯係〜』では青柳遥を演じ、大森南朋さん、相葉雅紀さんとトリプル主演を務めました。2026年1月から3月には、関西テレビ・フジテレビの『夫に間違いありません』で朝比聖子を演じています。7月から9月には『大追跡』のSeason2も放送されました。
そして2026年10月22日、テレビ朝日系の木曜ドラマ枠で『アナログナース~デジタルってなんなんだよ!?~』の放送が始まりました。脚本は中園ミホさん、共演は津田健次郎さん、原菜乃華さん、井上祐貴さんらです。松下奈緒さんが演じる那須田灯は、もともと2021年の『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』第5話に登場したフリーランス看護師で、「ナース版・大門未知子」とも呼ばれました。その人物が今度は主人公です。『ドクターX』『ザ・トラベルナース』に続く3部作の集大成と位置づけられています。
灯の信条は「便利さは人を退化させる」。最新の機器や電子カルテの情報だけに頼らず、手書きのノートに患者の小さな変化を記録していきます。派遣先の百井メディカルセンターでは「縄文ナース」とからかわれますが、効率化を進める病院で医師や看護師が考える力を失いつつあることに危機感を抱きます。松下さんは「シンプルに那須田灯が私は好きです!」と語っています。
松下奈緒さんの素顔とこれから、洋裁とスカートと23曲のステージ
仕事の外の顔も少し紹介します。趣味は洋裁です。2024年の『松下奈緒 20th ANNIVERSARY LIVE』の東京公演には、自分で作った黄色いスカートをはいて登場しました。一方でスポーツは苦手で、『週刊文春』のインタビューでは阿川佐和子さんに、苦手なものとしてスポーツ全般を挙げています。跳び箱や鉄棒も苦手だそうです。『CONTROL』で全力疾走していた姿を思い出すと、少し意外に感じます。料理もあまりしないそうで、そこも親しみのわく話です。
旅や芸術を伝える番組にも多く出ています。『松下奈緒「ショパン、私の恋人。」』『松下奈緒 永遠のオードリー』『松下奈緒 フェルメールの光を求めて』などに出演し、ナビゲーターも務めました。2014年には「V4+日本」交流年の親善大使も委嘱されています。2020年1月からは『日経スペシャル ガイアの夜明け』の3代目案内人を、2023年4月からは『朝だ!生です旅サラダ』のスタジオMCを担当しています。
音楽も止まっていません。2024年5月8日には通算9枚目のオリジナル・アルバム『souNds!』を出し、大阪新歌舞伎座と東京国際フォーラム ホールCで開いたライブでは、東京公演で全23曲を披露しました。女優を志した子どもは、ピアノを手放さずに活動を続けてきました。次の役と次のアルバムで、どんな松下奈緒さんに会えるのか、楽しみに待ちたいと思います。
写真: Dick Thomas Johnson from Tokyo, Japan / CC BY 2.0 (Wikimedia Commonsより)


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