趣里さん、バレリーナの夢から朝ドラ主演へ 2471人から選ばれた『ブギウギ』への道

2026年7月、趣里さんはテレビ朝日の木曜ドラマ『大空港〜GATE24〜』で主演を務め、税関職員の森万智を演じました。連続テレビ小説『ブギウギ』のヒロインを演じた俳優として、ご存じの方も多いはずです。けれど、趣里さんが最初に目指していたのは俳優ではありません。4歳から打ちこみ、15歳でイギリスへ渡って追いかけたバレリーナの道でした。夢をあきらめたあとに出会った演技の世界で、どんな役を重ねてきたのか。作品名と役名で順に見ていきます。

趣里さんの原点は4歳のバレエ、15歳でイギリスへ

趣里さんは1990年9月21日生まれで、東京都の出身です。父は俳優の水谷豊さん、母は伊藤蘭さんです。

4歳のとき、井上バレエ団でクラシックバレエを習い始めました。6歳で初舞台に立ち、小学5年生のときには憧れだった『くるみ割り人形』の主役、クララを演じています。本格的にバレリーナを目指すようになったのは、このころからです。毎日がバレエ一色だったといいます。

都内のインターナショナルスクールに3か月在籍したあと、オーディションに合格します。そして高校に進む15歳のタイミングで、イギリスのバレエ学校へ留学しました。

留学先では寮で暮らしました。4人部屋で、最初は英語がまったく分からず、辞書を引きながら会話していたそうです。まわりの人が簡単な英語で話してくれたおかげで、気づいたら理解できるようになっていました。いまも特技のひとつに英語を挙げています。

夢をあきらめたあと、軽い気持ちで受けた演技のレッスン

趣里さんはその後イギリスから帰国し、高等学校卒業程度認定試験で大学入学の資格を得ました。2009年に入学したのは、明治学院大学の文学部芸術学科です。練習には打ちこみ続けましたが、バレリーナの夢を断念します。

気持ちが沈むなかで、アルバイトや就職活動をしながら将来を探す日々が続きました。それでも、表現することへの想いはどうしても消えません。軽い気持ちで参加したのが、塩屋俊さんが主宰する演技学校「アクターズクリニック」のレッスンでした。ここで演技の面白さに目覚めます。

レッスンは週3回ほどで、海外のメソッドを学びました。ワークショップに加えて、役づくりを細かく書いたノートの提出もある、なかなかハードな内容だったそうです。

子どものころから、両親のドラマや歌番組を見て演技に興味を持っていました。その一方で、同じ道に進めば「二世」と呼ばれることになり、生半可な覚悟ではできないという重圧も感じていました。背中を押したのは、塩屋さんの「でもお前は大丈夫だから頑張れ。女優を続けていけ」という言葉です。

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金八先生でデビュー、舞台で重ねた5年間

2011年、趣里さんはオーディションに合格し、TBSの『3年B組金八先生ファイナル〜「最後の贈る言葉」4時間SP』でデビューしました。役は柴崎茜。実年齢より5歳下の中学生で、担任の坂本金八に恋をする役どころでした。

大学在学中のデビューでしたが、仕事が忙しくなり、2012年、4年生のときに中退して俳優の道を選びます。デビュー後もアクターズクリニックに通い、アメリカの演技学校「ステラ・アドラースタジオ・オブ・アクティング」の短期ワークショップでも学びました。

2012年から2016年までは、舞台が活動の中心です。師匠と仰ぐのは岩松了さんです。2011年の『国民傘』は最終オーディションで不合格でしたが、のちに岩松さんは『不道徳教室』(2013年)と『ジュリエット通り』(2014年)に趣里さんを起用し、「好きなようにやっていいよ」と表現を認めてくれました。

2014年6月には劇団オーストラ・マコンドーに加入し、2015年4月からトップコートに所属しています。『アルカディア』のトマシナ役、『メトロポリス』のカムロ役、『ペール・ギュント』のソールヴェイ役と、Bunkamuraシアターコクーンや世田谷パブリックシアターの舞台でも役を重ねていきました。

趣里さんの転機、『リバース』の熱演と主演映画での受賞

2016年、NHKの連続テレビ小説『とと姉ちゃん』に藤ヶ谷(大塚)寿美子役で出演し、注目を集めました。ここから映画やテレビドラマにも力を入れていきます。

大きな話題になったのが、2017年4月期のTBS『リバース』です。村井香織という狂気的な妻を熱演し、友人からも「ヤバいね」と言われたそうです。同じ年の11月には『過ちスクランブル』の君島理沙役で、連続ドラマに初めて主演しました。

2018年4月期のTBS『ブラックペアン』では、猫田麻里を演じます。クールな看護師役で存在感を見せて反響を呼び、第12回コンフィデンスアワード・ドラマ賞の新人賞を受けました。

同じ2018年には映画『生きてるだけで、愛。』で寧子を演じて主演を務めます。この作品で第33回高崎映画祭の最優秀主演女優賞、第42回日本アカデミー賞の新人俳優賞、おおさかシネマフェスティバルの主演女優賞、第28回日本映画プロフェッショナル大賞の主演女優賞を受賞しました。

2471人から選ばれた趣里さん、『ブギウギ』の福来スズ子へ

2022年10月17日、『ブギウギ』のヒロインに趣里さんが決まったと発表されました。応募者は2471人です。役は笠置シヅ子さんをモデルにした歌手、花田鈴子こと福来スズ子。朝ドラへの出演は『とと姉ちゃん』以来でした。

報道によると、朝ドラのヒロインオーディションへの挑戦はこれが4度目で、募集年齢の上限である32歳での合格でした。本人も、募集の年齢が自分の年齢までだったので、これが最後のチャンスだと思って挑んだと語っています。

チーフ演出の福井充広さんが注目した理由に挙げたのは「身体表現が抜群に面白い」ことでした。バレエで身につけた体のしなやかさや、踊りの音をつかむリズム感が評価されたのです。あきらめた夢の時間がここで役に結びつきました。

歌は撮影前から練習を始め、ボイストレーニングの先生と呼吸や発声の基礎から積み上げたと報じられています。音楽を担当した服部隆之さんは、成長していく歌声を聞いて、趣里さんに主題歌「ハッピー☆ブギ」を歌ってもらおうと考えたと明かしています。2023年には福来スズ子(趣里)名義で「東京ブギウギ」「ラッパと娘」が配信され、ミニ・アルバム『福来スズ子 傑作集』も発売されました。放送は2023年10月2日から2024年3月29日まで。第32回橋田賞の新人賞や、第119回ザテレビジョンドラマアカデミー賞の主演女優賞を受けています。

朝ドラのあとも主演が続く、『モンスター』から『大空港〜GATE24〜』へ

『ブギウギ』と同じ2023年に公開された映画『ほかげ』でも主演を務め、第97回キネマ旬報ベスト・テンの主演女優賞を受賞しました。2024年には『ブラックペアン』シーズン2で猫田麻里役に戻り、10月からは『モンスター』で神波亮子を演じて主演しています。2025年には第49回エランドール賞の新人賞(TVガイド賞)も受けました。

2026年も出演が続きます。映画では『教場 Reunion』『教場 Requiem』の澄田紗羅役、『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』の芝田ひばり役など。ドラマでは6月に『世にも奇妙な物語 ’26夏の特別編』の「実家じまい」で夏目沙耶を演じ、主演しています。

そして7月23日から9月17日まで放送された『大空港〜GATE24〜』が、テレビ朝日の連続ドラマでの初主演作です。舞台は空港の入管と税関。入国させる人やモノと止める人やモノを見極め、密輸などの国際犯罪に立ち向かう「GATE24」を描きました。脚本は丑尾健太郎さんで、眞栄田郷敦さん、板垣李光人さん、柳葉敏郎さん、松雪泰子さん、齊藤京子さんらが共演しています。

趣里さんが演じた森万智は新任の税関職員です。人とのやりとりは苦手でも、モノから手がかりを読み取る観察眼を持っています。役について趣里さんは「モノをすごく丁寧に観察していて、小さな違和感にもちゃんと立ち止まれる」とコメントしました。

インドア派で少しおっちょこちょい、趣里さんの素顔

仕事を離れた趣里さんは根っからのインドア派だそうです。稽古場か仕事の現場にいるか、そうでなければ自宅でせりふを覚えたり、配信のドラマを見たりしています。休みの日に出かけるのはマッサージくらいで、ジムには行かず、トレーニングも家でしています。

趣味はフィギュアスケートと映画鑑賞で、特技はクラシックバレエ、英語、ギターです。アイスが好きで、自宅にかき氷機を買ったほどだといいます。

性格は、あまり行動的ではないほうだそうです。宅配ボックスの荷物を取り出し忘れたり、PASMOをたびたびなくしたりする、おっちょこちょいな一面もあります。

親しい友人には、劇作家の根本宗子さんや俳優の前田敦子さんがいます。前田さんとは飲食店で偶然知り合って意気投合しました。2022年10月には、前田さんが自身のInstagramに2人の写真を載せ、「趣里は家族いやそれ以上」とつづっています。文化放送のラジオでは『スナック趣里』という番組も、2022年と2024年に放送されました。

どんな色にもなれる役者へ、これからの趣里さん

趣里さんが大切にしている言葉があります。トークショーで大林宣彦さんが口にした「役者は絵の具であるべきだ。どんな色にもなれるから」です。そのうえで「エキセントリックな個性的な役の方がいいかも。監督の追い求めているものに少しでも近づきたいし、限界まで出し切りたい」と話していました。岩松了さんについても「岩松の作品で、生き続けられるような役者でいたい」と語っています。

自分がどうなりたいかよりも、与えられた役に全力で取り組むこと、チームで作品を作り上げることを大切にしているそうです。

『ブギウギ』の経験はプレッシャーとの向き合い方も変えました。それまでは物事を考えすぎることがありましたが、撮影を終えてからは必要以上に思い悩まず気持ちを切り替えられるようになったといいます。撮影のあとには、俳優を続けてよいのか、どんな人間になりたいのかを改めて考える時間も持ちました。

仕事の幅も広がっています。2025年にはNHK BSのドキュメンタリー『戦後80年 僕の日本人助産師を探して』で語りを担当しました。2026年の映画では『Piccola felicità〜小さな幸せ〜』の白河葵役や『バナ穴 BANA_ANA』の川島夫人役も演じています。バレエから始まった表現の道で、次はどんな色の役を見せてくれるのでしょう。

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