
2026年10月、広瀬すずさんは横浜流星さんとのダブル主演映画『汝、星のごとく』で、刺繍を仕事にしたいと願う井上暁海を演じています。同じ年の春には野田秀樹さんの舞台に立ち、夏にはNetflixのドラマが日本で1位に。いまや日本映画の真ん中にいる広瀬さんですが、デビューしたばかりのころは、芸能の仕事が好きになれなかったといいます。
バスケットボールに夢中だった静岡の少女が、姉の付き添いで出かけたイベントをきっかけに、カンヌのレッドカーペットを2度歩く女優になりました。朝ドラのヒロイン、紅白の司会、野田秀樹さんの舞台と、立つ場所を少しずつ広げてきた人でもあります。出演作と役名をそえて、その歩みを順に見ていきます。
姉の付き添いから始まった広瀬すずさんの芸能界
広瀬すずさんは1998年6月19日、静岡県清水市(いまの静岡市清水区)で生まれました。姉は女優の広瀬アリスさんです。小学生で始めたバスケットボールは、いまも特技にあげるほど。中学時代はバスケ中心の毎日でした。
きっかけは、姉が専属モデルを務める雑誌『Seventeen』のイベントに、母と足を運んだ日でした。そこで姉の所属事務所の社長から声をかけられ、断り切れずに芸能界へ。2012年8月、専属モデルオーディション「ミスセブンティーン2012」でグランプリを受賞し、姉妹そろって同誌の専属モデルになりました。同じ年に『天才!志村どうぶつ園』でテレビ初出演と姉との初共演、12月には「進研ゼミ高校講座」でCM初出演を果たしています。
ただ、芸能活動は「バスケに影響しない程度でやる」という約束でした。初めて決まったCMの仕事が大事な試合と重なり、試合に出られずに大泣きしたそうです。はじめは芸能の仕事を好きになれなかったと明かしています。
小さな役を重ねた女優の入り口
2013年、関西テレビ・フジテレビのドラマ『幽かな彼女』で柚木明日香を演じ、女優デビューします。9月には映画『謝罪の王様』のつぐみ役でスクリーンデビュー。11月には山下達郎さんの「クリスマス・イブ(30th Anniversary Edition)」のショートフィルムで、初めて主演を務めました。この年の秋からは、TOKYO FMの『SCHOOL OF LOCK!』でパーソナリティーも担当しています。
2014年は、名前と顔が一気に広まった年です。大塚食品「MATCH」のCMで姉と初めてCMで共演し、結婚情報誌『ゼクシィ』のCMでは15歳で花嫁を演じた姿が話題になりました。11月発売の『Seventeen』12月号で初めて単独で表紙を飾り、第93回全国高校サッカー選手権大会では応援マネージャーを務めています。
ドラマでは『ビター・ブラッド』の佐原忍など、脇の役をひとつずつ重ねていきました。翌2015年の『Seventeen』3月号では、姉と同誌史上初の姉妹表紙も飾っています。
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海街diaryでカンヌのレッドカーペットへ
2015年は、広瀬すずさんにとって大きな転機の年になりました。1月、日本テレビのドラマ『学校のカイダン』で春菜ツバメを演じ、連続ドラマに初主演します。
そして6月公開の是枝裕和監督の映画『海街diary』です。吉田秋生さんの漫画が原作で、綾瀬はるかさん、長澤まさみさん、夏帆さんが演じる鎌倉の三姉妹と暮らすことになる異母妹、浅野すずを演じました。この作品は第68回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品され、広瀬さんも公式上映に出席しています。演技は高く評価され、その年の映画賞の新人賞を次々と受賞しました。
7月には劇場アニメ『バケモノの子』のヒロイン・楓で、声優にも初挑戦しています。この年、ビデオリサーチの「タレント別テレビCM広告主数ランキング」でも1位になり、テレビをつければ広瀬さんがいる、という状態になっていきました。正月には日本テレビで『広瀬すずの高校サッカー魂』という番組も持っています。
ちはやふるの千早で主演女優に
2016年3月、映画『ちはやふる -上の句-』で競技かるたに打ちこむ綾瀬千早を演じ、映画で初めて単独主演を務めます。続く『下の句』、2018年の『結び』まで、シリーズは3作になりました。同じ2016年には『四月は君の嘘』で宮園かをりを、翌年には『チア☆ダン』で友永ひかりを演じ、どちらも主演を務めています。第40回日本アカデミー賞では、『ちはやふる -上の句-』で優秀主演女優賞、『怒り』の小宮山泉役で優秀助演女優賞をダブル受賞。エランドール賞の新人賞にも選ばれています。
2017年3月には、高校卒業後は進学せず女優業に専念すると発表しました。7月にはパリ・オートクチュールコレクションにも参加しています。この年、アニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』で及川なずなを演じて初めて主演声優を務め、劇中で歌った「瑠璃色の地球」でCDデビューも果たします。是枝裕和監督の『三度目の殺人』では、ヴェネツィア国際映画祭の公式上映に出席しました。
2018年はドラマ『anone』で辻沢ハリカを演じ、3年ぶりに連続ドラマで主演します。秋には『Seventeen』の専属モデルを卒業し、年末には『NHK紅白歌合戦』の紅組司会を務めました。
朝ドラ100作目と初舞台で広がった幅
2019年、NHK連続テレビ小説の100作目『なつぞら』で、ヒロインの奥原なつを演じました。秋には野田秀樹さん作・演出の『Q:A Night At The Kabuki』で初舞台に挑み、紀伊國屋演劇賞の個人賞を受賞しています。この作品は2022年に再演され、ロンドンのサドラーズウェルズ劇場でも上演されました。
この年の12月には、美容雑誌VoCEの「2019年最も美しい顔」にも選ばれました。2020年にはルイ・ヴィトンのアンバサダーに就任。2021年の『桶狭間 OKEHAZAMA〜織田信長〜』では濃姫を演じ、時代劇に初めて出演しています。その後も、ドラマ『ネメシス』の美神アンナ、『津田梅子〜お札になった留学生〜』の津田梅子、映画『流浪の月』の家内更紗、ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』の浅葱空豆と、まったく違う人物を演じ分けていきました。
2025年はドラマでも忙しい年でした。1月からTBSの『クジャクのダンス、誰が見た?』で山下心麦を演じ、7月からは日本テレビの『ちはやふる-めぐり-』で、ふたたび綾瀬千早として登場しています。同じ1月には、Netflixの『阿修羅のごとく』で陣内咲子も演じました。
広瀬すずさんのいま 舞台とNetflixと汝、星のごとく
映画でも2025年は大きな年でした。2月の『ゆきてかへらぬ』で長谷川泰子を、4月の『片思い世界』では杉咲花さん、清原果耶さんとともに相良美咲を演じます。主演作『遠い山なみの光』(悦子役)は第78回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品され、10年ぶりにカンヌのレッドカーペットを歩きました。9月には『宝島』でヤマコを演じています。2026年3月には、芸術選奨文部科学大臣新人賞の映画部門を受賞しました。
2026年4月からは、野田秀樹さんのNODA・MAP第28回公演『華氏マイナス320°』に、阿部サダヲさん、深津絵里さんらと出演。7月に配信が始まったNetflixのドラマ『ガス人間』では、都市伝説の動画チャンネルを運営する兄妹の妹・藤川華歩を演じ、兄役は林遣都さんです。配信初週に日本のTOP10で1位になりました。
そして10月9日公開の映画『汝、星のごとく』。凪良ゆうさんのベストセラーを藤井道人監督が映画にした作品で、瀬戸内の島で育った井上暁海を演じています。島に転校してきた青埜櫂(横浜流星さん)と出会ってからの15年を描く作品で、10月3日の公開直前イベントには原作の凪良さんと並んで登壇しました。
ノートと猫とキックボクシング 仕事の外の顔
台本は、シーンごとのページを写真のように覚えてから現場に入るそうです。こういう人になれたらうれしいと思う女優には松たか子さんを、近い世代でいちばん尊敬する役者には二階堂ふみさんの名前をあげています。
小学生のころから続けているのが、その日の出来事をノートに書くこと。気持ちがリセットされて、ストレスの発散になるのだとか。2017年からはキックボクシングを始め、筋肉をつけてもっと強くなりたいと練習を続けています。ドラマ『anone』の撮影現場で共演した猫に「あの」と名づけ、撮影後も一緒に暮らしているのも知られた話です。好物はさつまいもとニラ。好きな芸人はシソンヌで、舞台にも足を運んだことがあるそうです。昔から聴いている曲にはPUFFYの「これが私の生きる道」をあげ、カラオケでは合唱曲の「翼をください」をよく歌うと話しています。
2020年には不足していたハンドジェルを静岡県の学校に寄付し、2022年にはウクライナの復興支援のクラウドファンディングで1000万円以上を寄付しました。華やかな仕事の外でも、身近な人や困っている人に目を向けてきたことが分かります。
これからの広瀬すずさん
この先も予定が続きます。2027年1月からはNetflixのドラマ『フジヤマBOY』で浜宮真美を演じる予定で、2月5日には映画『存在のすべてを』の公開が控えています。こちらの役は土屋里穂です。2023年に始まったTOKYO FMのラジオ番組『広瀬すずの「よはくじかん」』も続いていて、映像とは違う、肩の力が抜けた声を聞くことができます。
CMの仕事が試合と重なって泣いた中学生が、いまは舞台、配信、映画と、どの場所でも真ん中を任されるようになりました。朝ドラのヒロイン、かるたの千早、野田秀樹さんの舞台と、同じ場所にとどまらずに新しい役へ向かってきたのが広瀬さんらしさです。2025年から2026年にかけて演じたのは、長谷川泰子、相良美咲、悦子、ヤマコ、藤川華歩、井上暁海。芸術選奨の受賞を伝える報道でも、それぞれに異なる難役を演じたことがあげられていました。
デビューから10年以上がたち、カンヌに2度立った経験を持ついまも、毎日ノートに向かう習慣は変わっていないようです。次にどんな人物を見せてくれるのか、楽しみに待ちたいと思います。
写真: Martin Kraft / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commonsより)


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