松本若菜さんはどんな人 鳥取県米子市から主演女優へ
ゴールデン帯の連続ドラマで主演を重ね、2025年からは賞の知らせも続いている松本若菜さん。落ち着いた大人の役から、思わず笑ってしまうほど濃い役まで演じ分ける女優です。けれど、その道のりはけっして近道ではありませんでした。デビューから大きな注目を集めるまで、じつに15年ほどかかっています。
松本さんは1984年2月25日、鳥取県米子市の生まれです。3姉妹の末っ子として育ちました。中学校では吹奏楽部に入り、クラリネットを担当していました。
高校は鳥取県立淀江産業技術高等学校(現在の鳥取県立米子南高等学校)の食物調理科に進みました。在学中に調理師免許を取り、普通自動車の運転免許も取っています。勉強のかたわら、たこ焼き屋、お好み焼き屋、カフェでアルバイトもしていました。料理と接客に親しんだこの時期の経験は、のちの東京での暮らしを支えることになります。
一度は断ったスカウト 地元で働いた日々
芸能界との最初の接点は、高校在学中の15歳のときでした。地元の米子駅前サティ(現在のイオン米子駅前店)で、仕事で訪れていた芸能事務所オフィスウォーカーの社長と、当時その事務所に所属していたタレントの奈美悦子さんに偶然出会い、スカウトを受けます。
ところが松本さんは、このとき誘いを断っています。芸能界のことをよく知らなかったうえ、地元を離れる不安もあったと伝えられています。高校を卒業すると地元の企業に就職し、化粧品会社の美容部員や美容院の受付として働きました。
ふつうに考えれば、ここで話は終わっていたはずです。けれど働くうちに、自分の可能性を知らない世界で広げてみたいという気持ちが芽生えていきます。そこで松本さんは、高校時代に一度断ったオフィスウォーカーに自分から電話をかけ、芸能界に入ることを決めました。
一度断った相手に、今度は自分から連絡をする。小さなことに見えて、なかなかできることではありません。誘われるのを待つのではなく、自分の手で扉をたたいたこの一本の電話が、女優・松本若菜さんの出発点になりました。
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22歳の上京 うなぎ屋でアルバイトしながらレッスンへ
2006年3月9日、22歳の松本さんは鳥取県から上京します。最初に働いたのは、新宿のルミネtheよしもと近くにあるうなぎ屋でした。アルバイトをしながら演技のレッスンに通い、初めて受けたオーディションに合格しています。
上京してからは、アルバイトをいくつも掛け持ちする日々が続きました。寿司屋、沖縄料理屋、蕎麦屋などで働き、34歳まで勤めたカフェの厨房では料理長を任されていました。高校の食物調理科で学び、調理師免許を持っていたことが、ここで生きたのでしょう。
女優の仕事と飲食店の仕事を行き来する暮らしは、10年以上におよびます。華やかな場所に立つ一方で、厨房で包丁を握る毎日もあったわけです。料理長を任されるほど、厨房の仕事にも打ちこんでいたことになります。
のちに主演女優として名前が知られるようになってからも、この長いアルバイト時代は松本さんを語るうえで欠かせない時間になっています。
仮面ライダー電王でデビュー その後に続いた長い下積み
女優デビューは2007年です。テレビ朝日の『仮面ライダー電王』で、主人公・野上良太郎(佐藤健さん)の姉、野上愛理を演じました。主人公を見守るやさしい姉の役で、劇場版『仮面ライダー電王 俺、誕生!』をはじめとする映画にも同じ役で出演しています。
2008年には、TBSの敷地内にできた赤坂サカスのイメージキャラクター「赤坂なでしこ娘」に選ばれました。2009年公開の映画『腐女子彼女。』では、白崎ヨリコ役で映画初主演を果たしています。
『電王』に出ていたころは、街で声をかけられるほどになっていました。けれど番組が終わると、そうしたことはなくなります。その後は10年以上、ヒット作と呼べる作品に恵まれない時期が続きました。
それでも出演は途切れていません。『相棒』『科捜研の女』『遺留捜査』などの刑事ドラマにゲストで出演し、2011年6月には事務所をトリプルエーに移りました。2012年には映画『はなればなれに』が東京国際映画祭に招かれ、監督や共演者とグリーンカーペットを歩いています。2012年には『仮面ライダーウィザード』にもゲストで出演し、『世にも奇妙な物語』や2時間ドラマにもたびたび顔を見せています。目立たなくても、一本ずつ役を積み上げていった時期でした。
愚行録と麒麟がくる 評価が積み重なった30代
流れが少しずつ変わりはじめたのは、30代に入ってからです。2017年、映画『愚行録』での演技が評価され、第39回ヨコハマ映画祭で助演女優賞を受けました。脇の役でも強い印象を残す女優として、映画ファンのあいだで名前が知られるきっかけになります。
同じ2017年には、TBSのドラマ『コウノドリ』第2シリーズで倉崎恵美役を演じました。2018年には『チア☆ダン』の漆戸今日子役、関西テレビの『僕らは奇跡でできている』の宮本涼子役と、連続ドラマのレギュラー出演が増えていきます。
2020年には、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』に初めて出演しました。演じたのは徳川家康の母、於大の方です。その後、2023年の大河ドラマ『どうする家康』では、家康を支える阿茶局を演じています。二つの大河ドラマで、家康の母と、家康のそばにいる女性の両方を演じたことになります。
2020年には『映像研には手を出すな!』の水崎菜穂美役、『私の家政夫ナギサさん』の箸尾玲香役など、話題作への出演も続きました。主役ではなくても、作品を見た人の記憶に残る役が少しずつ増えていった時期です。
やんごとなき一族で話題に 松本劇場と呼ばれた怪演
大きな転機は2022年に訪れます。この年の初めには、フジテレビの『ミステリと言う勿れ』の終盤に猫田十朱役で出演し、Netflixの『金魚妻』にも出ていました。そして同じ4月から放送されたのが、フジテレビの木曜劇場『やんごとなき一族』です。主人公・深山佐都をいびる義姉、深山美保子を演じました。昼ドラを思わせる濃い演技が話題になり、一気に注目を集めます。
佐都に向けた替え歌や、くるくる変わる表情がSNSで取り上げられ、「松本劇場」というハッシュタグや動画が広まりました。意地悪な役なのに、見ている人がつい笑ってしまう。そんな振り切った演技が、多くの視聴者の心をつかんだのです。
この役で、第112回ザテレビジョンドラマアカデミー賞の助演女優賞、東京ドラマアウォード2022の助演女優賞を受けました。Yahoo!検索大賞2022では俳優部門の1位にも選ばれています。デビューから15年ほどたって、ようやく大きな波が来たことになります。
同じ2022年7月には、テレビ東京の『復讐の未亡人』で連続ドラマ初主演を果たしました。演じたのは鈴木密です。さらに日本テレビの『ファーストペンギン!』の溝口静役など、出演作が次々と決まっていきました。
西園寺さんは家事をしない 松本若菜さん芸歴18年目のゴールデン帯初主演
2023年以降も勢いは続きます。TBSの『夕暮れに、手をつなぐ』の磯部真紀子役、NHKの『探偵ロマンス』、フジテレビの『君が心をくれたから』の千秋役、NHKの『正直不動産2』の愛原真耶役など、局をまたいで出演を重ねました。
そして2024年7月、TBSの火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』で、主人公の西園寺一妃を演じます。芸歴18年目にして、ゴールデン・プライム帯の連続ドラマで初めての主演でした。同じ2024年の10月にはフジテレビの『わたしの宝物』で神崎美羽を、2025年4月には同じくフジテレビの『Dr.アシュラ』で杏野朱羅を演じ、主演作が続きます。
賞も重なりました。ORICON NEWSの2024年ブレイク俳優ランキング(女性編)で1位、2025年には第49回エランドール賞の新人賞(TVガイド賞)、第33回橋田賞の新人賞を受けています。40代で新人賞というところに、遅咲きの歩みがよくあらわれています。
2025年10月からはTBSの『ザ・ロイヤルファミリー』で野崎加奈子を演じ、この役で2026年に第35回TV LIFE年間ドラマ大賞2025の助演女優賞を受けました。2026年4月にはNHK BSの『対決』で檜葉菊乃、7月にはTBSの『君の好きは無敵』で草壁杏奈を演じ、どちらも主演を務めています。
言葉の力を信じる松本若菜さんの素顔とこれから
松本さんは、言葉の力や言霊を強く信じているそうです。女優の仕事が少なかったころから、自分に励ましの言葉をかけて気持ちを落ち着かせてきました。叶えたい夢を口に出していたら本当に叶った、という経験もあったといいます。
いまも、こうなりたい、こうしたいという考えはできるだけ言葉にしているそうです。そうしていると、まわりの人がその言葉を覚えていて、あとで思い出してくれることがあると話しています。長い下積みを支えたのは、この前向きな習慣だったのかもしれません。
装いの面でも、2025年に第36回日本ジュエリーベストドレッサー賞の40代部門、第42回ベストジーニスト2025の協議会選出部門に選ばれています。
ふるさととのつながりも大切にしています。2010年5月12日には鳥取県から「とっとりふるさと大使」を任されました。活躍は鳥取県庁のメールマガジンや地元の日本海新聞でも伝えられ、そうした縁から鳥取県にかかわる仕事もしています。2023年には、骨髄バンクへの登録を広めるための映画『みんな生きている 〜二つ目の誕生日〜』への出演も決めました。
2026年9月24日には、オフィシャルファンクラブ「ワカナノコード」の発足を発表しました。一度断ったスカウトに自分から電話をかけたあの日から、松本さんは自分の言葉で道を切りひらいてきました。これからどんな役に出会い、どんな顔を見せてくれるのか、楽しみに待ちたいと思います。

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