吉岡里帆さん 書道八段の京都っ子が夜行バスの下積みから大河『豊臣兄弟!』へ

吉岡里帆 女性芸能人
写真: Moritz Barcelona from Barcelona, Catalunya / CC BY 2.0(Wikimedia Commons)
吉岡里帆の写真

2026年、NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』で、主人公・豊臣秀長の妻である慶(ちか)を演じた吉岡里帆さん。大河ドラマへの出演はこれが初めてでした。同じ年には奈緒さんとW主演を務めた映画『シャドウワーク』が公開され、第18回TAMA映画賞では最優秀女優賞を受けています。

日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞と最優秀助演女優賞の両方を手にしてきた吉岡さんですが、もともと目指していたのは女優ではなく書道家でした。京都の大学に通いながら、夜行バスで東京のレッスンへ通った日々があります。その道のりを順にたどっていきます。

京都・太秦で芸術に囲まれて育った吉岡里帆さんの子ども時代

吉岡里帆さんは1993年1月15日、京都市右京区の太秦に生まれました。映像会社を経営するカメラマンの父と、母や祖母の影響を受けて、幼いころから映画や演劇、歌舞伎、能、日本舞踊、落語といった芸術文化に親しんで育ちました。

父はよく映画を見せてくれたそうで、小学生のころに印象に残った作品として、デヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』を挙げています。子どもが見るにはずいぶん大人びた一本ですが、いまも家族の会話で話題にのぼる作品だと明かしています。

7歳のときには友人に誘われて書道を始め、中学、高校と真剣に打ちこみました。中学では映画『スウィングガールズ』にあこがれて吹奏楽部に入り、アルトサックスを担当します。進学校の京都府立嵯峨野高等学校に進んでからは、部活動よりも勉強とアルバイトに力を注ぐ毎日を送りました。

書道家を目指した大学で出会った学生演劇

高校を出た吉岡さんは、書道家を目指して京都橘大学文学部日本語日本文学科の書道コースに進みます。ところが、芝居への思いはずっと胸の中に残っていました。つかこうへいさん、三島由紀夫さん、唐十郎さんらの作品を上演する学生劇団のエネルギーに刺激を受け、気持ちは舞台へと向かっていきます。

18歳のとき、同志社大学の友人に誘われて小劇場の舞台に立ち、唐十郎さんの『吸血姫』で主人公を演じました。これをきっかけに、吉岡さんは学生演劇の世界にのめりこんでいきます。学生が中心になってつくる自主映画の撮影にも加わりました。

2014年には、学生が制作したインディーズドラマ『ショート・ショウ』第1話「サティスファクション」(KBS京都)でテレビドラマに初めて出演します。同じ2014年に公開された短編映画『イルカ少女ダ、私ハ』では主演のルカ役を務め、MOOSIC AWARDS 2014の女優賞と第1回新人監督映画祭の女優賞を受けました。京都で積み重ねた芝居が、少しずつ形になり始めた時期です。

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夜行バスで京都と東京を往復した下積みの5年間

テレビも映画も、制作の中心は東京です。東京に出るべきか悩んでいたころ、吉岡さんは映画『天地明察』(2012年)に町娘役のエキストラとして参加し、滝田洋二郎監督から東京に来てはどうかと勧められます。この言葉にも背中を押され、東京の養成所に通い始めました。

京都の大学で演劇を続けながら、東京の養成所でレッスンを受ける生活です。交通費は、居酒屋やカフェ、歯科助手など、多いときで4つのアルバイトを掛け持ちしてまかないました。大学のあとに作品づくりをしてアルバイトへ行き、夜行バスで東京へ。漫画喫茶でシャワーを浴びてオーディションを受け、また夜行バスで京都に戻る。そんな日々を5年ほど続けています。

上京資金を貯めるため、2015年3月までの約1年間は滋賀県大津市の大津プリンスホテルで働き、クロークや配膳を担当しました。人を楽しませるための気遣い、気配り、おもてなしの3つは、いまも役者の仕事で大事にしていることだと語っています。

2015年5月公開の映画『明烏』ではヒロインの明子役を演じました。このとき福田雄一監督から厳しい言葉で叱咤され、人より何倍も恥をかき捨てる覚悟を持つようになったと振り返っています。それ以来、体当たりの役にもためらわず向き合えるようになったそうです。

吉岡里帆さんの名を広めた『あさが来た』ののぶちゃん

2015年6月、吉岡さんはついに上京します。NHKドラマ10『美女と男子』の後半に朝倉かれん役でレギュラー出演したことで、連続テレビ小説のスタッフの目に留まりました。同じ年の後期の朝ドラ『あさが来た』のヒロインオーディションでは最終選考で落選しましたが、制作側から何か役をやってほしいと声がかかります。

こうして2016年2月の第18週から、ヒロイン・あさの娘の親友、田村宜役でレギュラー出演が決まりました。丸メガネがトレードマークの「のぶちゃん」を、ひたむきに、ときにコミカルに演じて、一気に注目を集めます。役名で話しかけられることが増え、おばあちゃんから小学生まで幅広い世代からファンレターが届いたことは、いまも励みになっているそうです。

朝ドラの放送が終わると、2016年4月の『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)で佐倉悦子役を演じ、民放の連続ドラマに初めてレギュラー出演します。続く『死幣-DEATH CASH-』(TBS系)、『メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断』(関西テレビ)と、レギュラー出演が途切れなく続きました。5月には結婚情報誌『ゼクシィ』の9代目CMガールに選ばれ、12月には福田雄一さん演出の舞台『ナイスガイ in ニューヨーク』で初めて商業演劇の舞台に立っています。

『カルテット』の来杉有朱が開いた新しい扉

吉岡さんが転機の作品として名前を挙げるのが、2017年1月期の火曜ドラマ『カルテット』(TBS系)です。演じたのは来杉有朱。周りの和を乱すことを面白がるような役どころでした。この演技が話題を呼び、第7回コンフィデンスアワード・ドラマ賞の新人賞と、第92回ザテレビジョンドラマアカデミー賞の助演女優賞を受けています。

吉岡さんは、この役ととことん向き合い、それを魅力的で面白い役として楽しんでくれた視聴者に出会えたと振り返っています。自分がどう見られるかよりも、作品の一部として面白い存在でいられればいい。そう思えたことが、役者としてずっと支えになっているそうです。

同じ2017年の7月期には『ごめん、愛してる』(TBS系)でまっすぐなヒロインの三田凛華役を演じ、演技の幅の広さを見せました。ORICON NEWSの「2017 ブレイク女優ランキング」では1位に選ばれ、年末には「VOGUE JAPAN Women of the Year 2017」や「Yahoo!検索大賞2017 女優部門賞」も受賞。『第68回NHK紅白歌合戦』ではゲスト審査員を務めました。翌2018年にはエランドール賞の新人賞を受けています。

主演作と大きな賞を重ねた吉岡里帆さんの2018年から2023年

2018年1月期の『きみが心に棲みついた』(TBS系)で、吉岡さんは連続ドラマに初主演し、小川今日子役を演じました。2月には『眠狂四郎 The Final』(フジテレビ系)で念願の時代劇に初挑戦します。7月には芸能活動5周年の節目にファースト写真集『so long』を出し、同じ7月期には『健康で文化的な最低限度の生活』(関西テレビ)で主演の義経えみる役を務めました。

10月公開の映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』ではヒロインの明日葉ふうか役で、歌とギターに初めて挑みました。12月の『2018 FNS歌謡祭』には役名のふうかとして阿部サダヲさんと出演し、テレビで初めて歌声を届けています。

2019年は映画『パラレルワールド・ラブストーリー』でヒロインの津野麻由子役を、主演映画『見えない目撃者』で視力を失った元警察官の浜中なつめ役を演じ、第43回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受けました。2021年には、主演した『The Stars My Destination/星を継ぐ者』で第7回ミラノ国際映画祭の外国語映画部門・最優秀主演女優賞を受けています。

2022年は、主演映画『ハケンアニメ!』の斎藤瞳役と、沖縄戦を描いた映画『島守の塔』の比嘉凛役が高く評価されました。『ハケンアニメ!』では第45回山路ふみ子映画賞の女優賞を受け、2023年には第46回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞に輝いています。

フラームで始まった第二章と2026年の出演作

2024年4月、所属していたA-teamが新しい芸能関係の業務を休むことになり、吉岡さんはフラームへ移りました。新しい場所で第二章をスタートさせると、自身のInstagramで伝えています。

同じ2024年11月公開の映画『正体』では安藤沙耶香役を演じ、第49回報知映画賞の助演女優賞を受賞。2025年には第48回日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞にも選ばれ、主演と助演の両方で最優秀賞を手にしました。2025年は映画『ファーストキス 1ST KISS』の天馬里津役や、水上恒司さんとW主演した『九龍ジェネリックロマンス』の鯨井令子役でもスクリーンに登場しています。

2026年は、大河ドラマ『豊臣兄弟!』で仲野太賀さん演じる小一郎(のちの豊臣秀長)の妻・慶役を務め、初めての大河ドラマに臨みました。映画では3月公開の『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』でサチ役、9月公開の『シャドウワーク』で主演の紀子役を演じ、この2作で第18回TAMA映画賞の最優秀女優賞を受けています。さらに2026年12月25日公開の映画『SUKIYAKI 上を向いて歩こう』では黒柳徹子さん役を務めることが発表されています。

書道八段にグミと猫 吉岡里帆さんの素顔とこれから

仕事の外の吉岡さんは、好きなものがはっきりした人です。7歳から続けた書道は八段の腕前で、バラエティ番組でもその筆さばきを見せています。学生時代に吹いていたアルトサックスも特技のひとつです。

大のグミ好きとしても知られ、2021年6月の『KinKi Kidsのブンブブーン』では、手探りだけで商品名を当てる「利きグミ」に挑戦して全問正解しました。これをきっかけに日本グミ協会に入り、2023年7月の時点で名誉会員になっています。漫画家・松本大洋さんの大ファンで、原画展で買った複製原画を自宅に飾っているそうです。猫と遊ぶことや新派の観劇も趣味で、ブログでは自分を重度の猫好きだとつづっています。

着物姿も評判で、2022年には「キモノイスト2022」に選ばれました。太秦で芸術に囲まれて育ち、書道に打ちこみ、学生演劇から夜行バスの下積みを経て、大河ドラマにたどり着いた吉岡里帆さん。京都で育てた芸への愛情と、どんな役にも体当たりで向き合う姿勢が、これからの作品でどんな顔を見せてくれるのか楽しみです。

写真: Moritz Barcelona from Barcelona, Catalunya / CC BY 2.0 (Wikimedia Commonsより)

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