やす子の生い立ち 元自衛官のブルドーザー乗りが「はい〜」で人気芸人になるまで

やす子 女性芸能人
写真: 陸上自衛隊 / CC BY 4.0(Wikimedia Commons)
やす子の写真

宇部市で育った少女の夢は獣医と漫画家

迷彩服に七三分けの髪型で「はい〜」とほほえむ姿は、テレビですっかりおなじみになりました。お笑い芸人のやす子さんは、バラエティのレギュラー、CM、映画の声の出演まで幅広くこなし、2024年にはYahoo!検索大賞のお笑い芸人部門で1位にも選ばれています。けれども、芸人として歩きはじめたのは2019年のこと。その前は陸上自衛隊でブルドーザーを動かしていたという、ほかにはなかなかない道のりの持ち主です。相方が来なかった初舞台から、どうやってここまでたどり着いたのでしょうか。

やす子さんは1998年9月2日、山口県宇部市に生まれました。本名は安井かのんさんです。

子どものころのあだ名は「しけちゃん」。小学生のころの将来の夢は獣医で、中学生になると漫画家を目指すようになりました。絵を描くことや動物が好きな、どこにでもいる女の子の顔がのぞきます。高校は山口県立宇部中央高等学校に進み、柔道部に入って体をきたえました。のちに有段者となる柔道は、ここが出発点です。

高校卒業後は陸上自衛隊へ やす子さんがブルドーザーを動かした2年間

高校を出たあと、やす子さんは住み込みで働ける職場を探しました。候補に残ったのはパチンコ店と自衛隊の二つ。どちらにも応募し、最終的に陸上自衛隊に入ることになります。柔道部の顧問の先生に勧められたことも理由のひとつでした。

配属先は京都府宇治市の大久保駐屯地にある施設科部隊、第4施設団です。施設科は道や橋をつくったり、災害の現場で土砂をどけたりする部隊で、やす子さんはドーザ手、つまりブルドーザーの運転を担当しました。勤務は2019年までの2年間。大型特殊免許を持ち、射撃、水泳、柔道を特技にしています。

こうして身についた経験は、のちに芸人としての大きな武器になります。迷彩服も、きびきびした動きも、すべてこの2年間とつながっています。芸人になってからも即応予備自衛官として任官を続け、芸能の仕事の合間に自衛官の仕事もこなしてきました。忙しくなった2023年4月からは休んでいましたが、2024年4月からは月1回の訓練に戻ると話しています。

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清掃員から用務員へ 芸人になる前の回り道

自衛官を退いたあと、やす子さんは上京し、半年ほど官公庁などで清掃員として働きました。その後は中学校の用務員として勤めます。学校の校舎を整える仕事をしながら、まだ芸人になるとは考えていなかった時期です。

転機は、自衛官時代から付き合いのあった友人からの、お笑いをやろうという誘いでした。その声に乗り、二人でコンビ「新人類」を結成します。いろいろな事務所に履歴書を送ったところ、返事をくれたのがソニー・ミュージックアーティスツでした。面接に行ったその日に所属が決まります。

おもしろいのは、やす子さん自身がそれまでほとんどテレビにふれてこなかったことです。タレントや人気番組の知識はほぼなく、のちに出演する『ぐるナイおもしろ荘』も、自分が出るまで知らなかったといいます。お笑いの世界にほぼ白紙のまま飛びこんだ、めずらしい出発でした。

相方のいない初舞台 1時間でつくったピンネタ

ところが、事務所ライブの当日、相方が姿を見せませんでした。その日のうちに芸人をやめようとも思ったそうですが、やす子さんは舞台を休みませんでした。急いで1時間ほどでひとり用のネタをつくり、芸名も本名から「やす子」に変えて出演します。ピラミッド形式でいちばん下のライブながら、299位に入りました。

そこから芸名はそのままに、2019年9月29日、ピン芸人として正式に活動をはじめます。ここからやす子さんは、お笑いを一から学びはじめました。『ダウンタウンDX』を見て松本人志さんの言葉のおもしろさにひかれ、『ダウンタウンのごっつええ感じ』のDVDを借りて研究したといいます。

好きな芸人として挙げるのは、ダウンタウンさん、千原ジュニアさん、ハリウッドザコシショウさん、天竺鼠さん、ズンズンポイポイさん、スタミナパンさんなど。舞台では七三分けに迷彩服というスタイルを決め、自衛隊ネタを磨いていきました。

自衛隊ネタと「はい〜」 やす子さんの芸が生まれるまで

やす子さんのネタの中心は、元自衛官という経歴です。五十音のどの音を言われても自衛隊っぽいことを言ったり動いたりできる、どんな職業を言われてもその中の自衛隊に向いているところを挙げられる「自衛隊勧誘」、何倍もの速さでこなす「自衛隊体操」、「5段階匍匐前進」など、ほかの人にはまねできない持ち芸がそろっています。

代表作は「このシルエットなんでshow?」というフリップ芸です。いろいろな形のシルエットが描かれたフリップを次々にめくっていくと、正体はどれもさまざまなポーズをとった自衛官、というもの。くり返しの中で笑いが大きくなっていく作りです。

持ちギャグの「はい〜」は、じつは狙ってつくったものではありません。初めてテレビに出たとき、テロップになった自分の言葉を見て、はじめて口ぐせだと気づいたそうです。自然に出ていた言葉が、そのまま代名詞になりました。かまいたちの山内健司さんに似ていると言われることもあり、顔まねも特技のひとつです。2022年には『かまいたちの机上の空論城』の「山内モノマネ王座決定戦」に出て、顔はそっくりでもモノマネでは惨敗し、スタジオの笑いを誘いました。

おもしろ荘3位から一気に やす子さんのブレイク

地上波で初めてネタを見せたのは、2020年4月6日放送の『東京オーディション(仮)』(TOKYO MX)でした。そして大きな一歩となったのが、2020年12月31日深夜に放送された『ぐるナイおもしろ荘2021』です。ここで3位に入り、名前が一気に知られるようになりました。

2021年1月からは『サンデー・ジャポン』(TBSテレビ)のリポーターに。同じ年の4月には、故郷の宇部ふるさと大使に就任しています。ドラマ『リコカツ』(TBSテレビ)では安井候補生の役を演じ、自衛隊を舞台にした物語に元自衛官ならではの存在感を添えました。

この時期は『水曜日のダウンタウン』『アメトーーク!』『踊る!さんま御殿!!』『さんまのお笑い向上委員会』など、人気番組への出演も続きます。『にちようチャップリン』(テレビ東京)ではMCを任された回もありました。テレビをほとんど見ずに育った人が、わずか1年ほどで看板番組に次々と呼ばれるようになったのです。

2023年にはオリコンのブレイク芸人ランキングで上半期、通年ともに1位に輝き、anan AWARD 2023のリプライ部門も受賞します。CMの仕事も増え、サントリーの「トリスハイボール」ではアンバサダーを務めました。2023年12月には『坂上&指原のつぶれない店』の企画でセブン-イレブンの商品開発にも挑み、仕事の幅はお笑いの外へも広がっていきます。

24時間テレビのマラソンと広がる仕事

2024年1月、やす子さんは『ぐるぐるナインティナイン』の人気コーナー「グルメチキンレース・ゴチになります!25」の新メンバーに選ばれ、ゴールデン帯のバラエティで初めてのレギュラーをつかみます。同じ年から『ヒルナンデス!』(日本テレビ)にも木曜のレギュラーとして出演し、2026年1月からは月曜のレギュラーになりました。

2024年の『24時間テレビ47』では、チャリティーマラソンのランナーを務めました。やす子さん自身の発案で、募金は全国600か所以上の児童養護施設のための「目的別募金」に。台風10号の影響で横浜の日産スタジアムを周回するコースに変わり、雨の中を80キロ超走りきって両国国技館にゴールしました。募金額は4億3801万4800円に達しています。

声の仕事でも活躍し、劇場アニメ『きみの色』(2024年)では百道さくの役を担当しました。『きかんしゃトーマス 大冒険!ルックアウトマウンテンとひみつのトンネル』ではダーシー役、『ジュラシック・ワールド/復活の大地』では科学者Bの役で吹き替えにも挑戦しています。CMは味の素冷凍食品「ギョーザ」で広瀬すずさんと、「クラフトボス」の宇宙人ジョーンズシリーズではトミー・リー・ジョーンズさんらと共演しました。2024年はLINE NEWS AWARDSタレント部門、Yahoo!検索大賞お笑い芸人部門1位も受賞しています。

RIP SLYMEと『日常』が好き やす子さんの素顔とこれから

芸人になってからも、やす子さんと自衛隊のつながりは続いています。2025年3月には予備自衛官の更新訓練に参加し、自衛隊の活動への理解を広めた功績で、陸上幕僚長から褒賞状を受け取りました。防災士の資格も持ち、2025年にはCBCテレビ『チャント!』で、いのちを守る備えを体験する企画にも出ています。

仕事の外の顔では、漫画『日常』の大ファン。宣材写真でおなじみの、手のひらを正面に向けるポーズも『日常』がもとになっています。音楽ではRIP SLYMEさんが大好きで、大阪のフェスまで足を運び、2025年10月の『THE夜会』でメンバーとの対面をはたしました。動物好きでもあり、自宅では元野良猫のアビシと暮らしています。

2026年8月には「TOKYOおもちゃショー2026」のアンバサダーとして登壇し、10月3日からは山口放送などでラジオ番組『やす子の活動報告であります、はい〜!』もはじまりました。ふるさと山口とのつながりを大切にしながら、テレビ、声の仕事、防災の発信と、活躍の場は広がり続けています。2024年には『アナザースカイ』で宇部市を訪ね、NHKの実験番組では「やす子の、山口に帰ろう」という回もありました。ブルドーザーから舞台へと進んだやす子さんが、次にどんな景色を見せてくれるのか楽しみです。

写真: 陸上自衛隊 / CC BY 4.0 (Wikimedia Commonsより)

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