妻夫木聡、約300万人から選ばれた高校生が『悪人』『ある男』で2度の最優秀主演男優賞

妻夫木聡 男性芸能人
写真: Georges Biard / CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)
妻夫木聡の写真

妻夫木聡さんが『宝島』を届けるため全国で名刺を手渡した夏

2025年9月19日に公開された映画『宝島』。真藤順丈さんの直木賞受賞作を、大友啓史監督が映画にした作品です。舞台はアメリカの統治下にあった戦後の沖縄・コザ。米軍基地から物資を奪って住民に分け与えた「戦果アギヤー」の幼なじみたちを描き、主演の妻夫木聡さんは、姿を消した英雄オンの親友で、のちに警察官となってその行方を追うグスクを演じました。オンを永山瑛太さん、ヤマコを広瀬すずさん、レイを窪田正孝さんが演じています。

この作品で妻夫木さんは、主演と同時に「宣伝アンバサダー」を務めました。6月の沖縄を皮切りに大友監督と全国の先行上映会を回り、肩書きの入った名刺を観客一人ひとりに手渡していきます。初主演作『ウォーターボーイズ』で全国を回ったときの気持ちを思い出したかったと話し、インタビューでは「映画の力を信じたいという想いが、僕の根源にあります。」と語っています。

この役で第49回日本アカデミー賞の優秀主演男優賞にも選ばれました。デビューから30年近くたっても、自分の足で作品を届けに行く。その原点をさかのぼります。

柳川で生まれ横浜で育った読者モデル時代

妻夫木さんは1980年12月13日、福岡県柳川市で生まれました。小学2年生のとき、航空会社で整備士として働いていた父親の転勤で、神奈川県横浜市に引っ越しています。

神奈川県立舞岡高校に通っていたころから、雑誌『東京ストリートニュース』の読者モデルとして人気を集め、何度も表紙を飾りました。1990年代後半のカリスマ高校生ブームの中で、スーパー高校生と呼ばれた一人です。その一方で、横浜スタジアムでビールの売り子のアルバイトもしていました。

音楽も身近にありました。特技はベースで、1999年ごろにはミュージシャンだった兄の妻夫木晋也さんとバンド「Basking Lite」を組み、ベースとボーカルを担当しています。読者モデルとして誌面に立ちながら、少しずつ人前に出る経験を重ねていった時期でした。

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約300万人の中から選ばれたグランプリと最初の壁

俳優になるきっかけは1997年です。ナムコがアミューズ、ホリプロ、ニッポン放送と組んで出したアーケードゲーム『ザ・スタアオーディション』のオーディションイベント「アホポン・プロジェクト」で、参加者約300万人の中から第1回グランプリに選ばれました。

所属したホリプロは、最初はあえてアイドル雑誌を狙わず、当時はやっていたストリート系の雑誌に毎月出る作戦をとりました。ショップの店員と並んで撮影するなど、見せ方を編集者と相談しながら、おしゃれでかっこいい妻夫木聡というイメージを作っていったそうです。

1998年、フジテレビヤングシナリオ大賞の受賞作『すばらしい日々』で俳優デビューし、映画『なぞの転校生』の岩田広一役で映画にも初出演します。1999年には映画『GTO』の河原崎一郎太役、フジテレビ『お水の花道』の中田役と経験を積み、2000年にはTBS『池袋ウエストゲートパーク』で斉藤富二夫を演じました。ただ、のちに本人は、俳優を始めたころは何もできず、悔しくて恥ずかしい思いをしたと振り返っています。演技はだれにも習わず一人で勉強し、台本は100回以上読むと語っています。

『ウォーターボーイズ』で妻夫木聡さんの名前が一気に広まる

大きな転機は2001年の映画『ウォーターボーイズ』です。矢口史靖監督のもと、シンクロナイズドスイミングに打ちこむ男子高校生・鈴木智を演じ、映画初主演で一気にブレイクしました。第25回日本アカデミー賞で優秀主演男優賞と新人俳優賞を受け、ゴールデンアロー賞の映画新人賞にも選ばれています。

ここから出演作が一気に増えていきます。2001年はTBS『天国に一番近い男』の隠岐之島正役、映画『富江 re-birth』の青山巧役。2002年にはフジテレビ『ロング・ラブレター〜漂流教室〜』で藤沢隆太を演じ、TBS『木更津キャッツアイ』第9話にリトル山田役で出演し、フジテレビ『ランチの女王』では鍋島純三郎を演じてさらに知名度を上げました。映画でも2002年の『SABU 〜さぶ〜』でさぶ、2003年の『ドラゴンヘッド』で青木テルと、主演が続いています。

若いころは同世代の窪塚洋介さんと比べられることが多く、個性の強い窪塚さんに対して、妻夫木さんは優等生タイプと言われていたそうです。さわやかな好青年のイメージは、このころに広く定着していきました。

研修医から月9、大河の直江兼続まで続いた主演

2003年、TBS『ブラックジャックによろしく』で連続ドラマに初主演します。医療現場の現実に打ちのめされながらも誠実さを失わない研修医・斉藤英二郎の役でした。同じ年の犬童一心監督の映画『ジョゼと虎と魚たち』では、ヒロインのジョゼと出会う青年・恒夫を演じ、それまでの好青年のイメージを塗りかえます。この役でキネマ旬報ベスト・テンの最優秀主演男優賞を受け、ロシアのウラジオストク映画祭でも最優秀主演男優賞に輝きました。

その後も主演作が続きます。2004年はTBS『オレンジデイズ』の結城櫂、映画『69 sixty nine』の矢崎剣介。2005年にはフジテレビ『スローダンス』の芹沢理一で月9枠に初主演し、行定勲監督の映画『春の雪』では松枝清顕を演じました。2006年の映画『涙そうそう』では、沖縄で妹を守る兄・新垣洋太郎を演じています。2007年の映画『どろろ DORORO』で百鬼丸を演じたときは、香港のイベントに約1000人のファンが集まり、人気がアジアにも広がっていることを示しています。

2009年には大河ドラマ『天地人』で直江兼続を演じ、大河ドラマに初出演にして初主演を果たしました。

『悪人』『怒り』『ある男』で日本アカデミー賞の最優秀賞を3度

2010年の映画『悪人』では、清水祐一を演じました。作品はモントリオール世界映画祭のワールド・コンペティション部門に出品され、妻夫木さんは第34回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞とブルーリボン賞の主演男優賞を受けています。2016年には、『69 sixty nine』『悪人』に続いて3度目のタッグとなる李相日監督の映画『怒り』で藤田優馬を演じました。初共演の綾野剛さんと2週間の同居生活を送って関係を築き、第40回日本アカデミー賞の最優秀助演男優賞を受けています。

巨匠との仕事も重ねました。2013年の山田洋次監督『東京家族』で一家の次男・平山昌次を演じ、同じ顔ぶれで『家族はつらいよ』シリーズの平田庄太役を続けます。2015年にはホウ・シャオシェン監督の『黒衣の刺客』に出演。2018年には野田秀樹さんと6度目のタッグとなった主演舞台『贋作 桜の森の満開の下』の耳男役で、パリ公演にも立ちました。映画では『愚行録』の田中武志、『来る』の田原秀樹、『浅田家!』の浅田幸宏と、作品ごとにまるで違う人物を演じています。

2022年の主演映画『ある男』では弁護士の城戸章良を演じ、作品はヴェネチア国際映画祭のオリゾンティ・コンペティション部門に出品。2023年に12年ぶり2度目となる日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受けました。

妻夫木聡さんの素顔はくるりとHi-STANDARDが好きな音楽ファン

仕事の外では、音楽鑑賞、映画鑑賞、ジョギングが趣味です。好きなミュージシャンとして、くるりとHi-STANDARDの名前を公言しています。兄の晋也さんとバンドを組んでいたこともあり、音楽はずっと身近な存在です。

交友の広さもよく知られています。『木更津キャッツアイ』で共演した嵐の櫻井翔さん、俳優の佐藤隆太さんとは今も親しく、3人での旅の様子がテレビで紹介されたこともありました。事務所の後輩だった池松壮亮さんとは、映画『ぼくたちの家族』で兄弟役を演じ、ふだんも兄弟のように接しているそうです。元プロ野球選手の松坂大輔さんとは高校時代からの付き合いで、2021年12月の引退セレモニーでは花束を贈り、友人代表としてメッセージを届けました。

人気は日本の外にも広がっていて、中国の人気シリーズ『唐人街探偵』の続編2作では、日本人探偵の野田昊を演じています。2018年の『唐人街探偵 NEW YORK MISSION』、2021年の『唐人街探偵 東京MISSION』と続けて出演し、海外の観客にも顔を知られる存在になりました。

作る側にも立ちはじめた妻夫木聡さんのこれから

デビュー20年目を迎えたころ、妻夫木さんは、これまで俳優の仕事は待つ部分が大きかったけれど、これからは小さなことでも作る側に立ち、一緒に企画を作り上げていきたいと話していました。2018年のWOWOW『イノセント・デイズ』では、主演だけでなく企画にも関わっています。2020年にはTBS『危険なビーナス』で、『オレンジデイズ』以来16年ぶりに日曜劇場の主演を務め、放送前日に公式Instagramも始めました。

2025年はとくに忙しい一年でした。連続テレビ小説『あんぱん』で八木信之介を演じ、10月からはTBS日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』で主演。早見和真さんの小説を原作に、人と競走馬の20年を描く作品で、挫折を味わった税理士・栗須栄治が馬主の山王耕造と出会い、止まっていた人生を動かしていきます。出演の発表では「どの時代でも、受け継がれていく未来への希望というものがあります。」とコメントしていました。2026年4月には映画『人はなぜラブレターを書くのか』で寺田良一を演じました。

『宝島』について妻夫木さんは、「命って、つながっていくものだなって。」と語っています。300万人の中から選ばれた高校生は、いま作品の届け方そのものを自分で考える俳優になりました。次に手渡してくれる作品が楽しみです。

写真: Georges Biard / CC BY-SA 3.0 (Wikimedia Commonsより)

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